まず、落ち着いてください。
今、とても大きな不安と衝撃の中にいらっしゃると思います。
ですが、検査の「陽性」は、まだ「HIV感染の確定」ではありません。
そして何より、HIVは現在「治療でコントロールできる病気」になっています。
私たちはあなたの味方です。正しい情報を知り、次のステップへ一緒に進みましょう。
このページの要点
- 最初の「陽性」は確定診断ではなく、精密な「確認検査」が必須です。
- 確定した場合、エイズ診療拠点病院などの専門医療機関へ速やかに連携します。
- 治療(ART)を早期に開始すれば、ウイルス量を検出限界未満に抑えられ、性行為で他者に感染させない(U=U)状態を目指せます。
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当院は、結果のご説明から専門機関へのご紹介まで、責任を持ってサポートします。→ HIV検査の予約・相談(恵比寿)
陽性だった場合の流れ
- STEP 1. Q. 「陽性」は、もう確定ですか?
- STEP 2. Q. どうやって「確定」になるのですか?(確認検査)
- STEP 3. Q. 「確定」したら、どうなりますか?(専門機関への連携)
- STEP 4. Q. 治療はいつから、どのように始まりますか?(ARTとU=U)
- STEP 5. Q. パートナーには、どうすればいいですか?
- STEP 6. Q. 治療の費用は? サポートはありますか?(公的制度)
- あなたの不安にお答えします(FAQ)
- モイストクリニックができること(私たちの役割)
- 監修医師・参考文献
STEP 1. Q. 「陽性」は、もう確定ですか?
結論:いいえ、まだ「確定」ではありません。
クリニックでの迅速検査や、保健所・郵送検査キットで行われる最初の検査は「スクリーニング検査」と呼ばれます。これらは見逃しがないように非常に感度が高く作られており、ごく稀に「本当は感染していないのに陽性(=偽陽性)」と出ることがあります。
そのため、スクリーニング検査で「陽性」または「判定保留」となった場合は、必ずより精密な「確認検査」に進む必要があります。
STEP 2. Q. どうやって「確定」になるのですか?(確認検査)
結論:日本のガイドラインに沿った精密検査(鑑別免疫測定やNAT)を行い、最終的に判断します。
スクリーニング検査で陽性反応が出た場合、同じ血液(または再採血)を使い、以下のステップで確認検査を行います。
- HIV-1/2 鑑別免疫測定:HIVの「1型」か「2型」か、あるいは「偽陽性」かなどを詳しく調べます。
- NAT(核酸増幅検査):必要に応じて、ウイルス遺伝子(RNA)そのものを検出するNAT検査を追加し、最終的な診断を下します。
時には、感染のごく初期(抗体が作られる前)で判断が難しい「判定保留」となることもあります。その場合は、医師が適切な時期(例:2~4週間後)の再検査をご案内します。
(出典:日本エイズ学会 診断ガイドライン2020)
STEP 3. Q. 「確定」したら、どうなりますか?(専門機関への連携)
結論:HIV治療の専門家がいる「エイズ診療拠点病院」などへ、速やかにご紹介します。
HIV感染症は、継続的な治療と管理が必要な病気です。当院のようなクリニック(一次医療機関)での診断後は、専門的な治療体制が整った全国の「エイズ診療拠点病院」や専門医療機関へご紹介し、治療のバトンを渡します。
専門機関では、現在の免疫力(CD4リンパ球数)やウイルス量(HIV RNA)、肝炎などの合併症をチェックし、あなたに最適な治療プランを立てていきます。
STEP 4. Q. 治療はいつから、どのように始まりますか?(ARTとU=U)
結論:診断されたら「できるだけ早く(理想は同日~7日以内)」に治療(ART)を開始することが推奨されます。
現在のHIV治療(ART:抗レトロウイルス療法)は飛躍的に進歩しており、1日1~2回の内服薬でウイルスの増殖を抑えることができます。
希望の光「U=U(ユーイコールユー)」
Undetectable(検出限界未満) = Untransmittable(感染しない)
適切な治療を続け、血液中のウイルス量が「検出限界未満」の状態を6ヶ月以上維持できれば、性行為によってパートナーにHIVを感染させるリスクはゼロであることが科学的に証明されています。(出典:CDC, WHO)
治療を早く始めることで、免疫力を高く保ち、将来の合併症を防ぐことができます。また、U=Uを達成することで、大切なパートナーを守ることにも繋がります。
STEP 5. Q. パートナーには、どうすればいいですか?
結論:あなたの大切なパートナーも検査を受ける必要があります。伝え方には公的なサポートもあります。
あなたが陽性と診断された場合、パートナーも感染している(または曝露している)可能性があります。パートナーの健康を守るためにも、検査を勧めることが重要です。
- パートナー通知:ご自身で伝えることが難しい場合、保健所などが匿名でパートナーに連絡し、検査を勧める「Partner Services(パートナー通知)」という仕組みがあります。医療機関や保健所にご相談ください。
- パートナーの緊急予防(PEP):もし最近(72時間以内)に性行為があった場合、パートナーはPEP(曝露後予防内服)で感染リスクを大きく下げられる可能性があります。至急ご相談ください。
STEP 6. Q. 治療の費用は? サポートはありますか?(公的制度)
結論:公的医療保険が適用され、さらに医療費の負担を軽減する制度があります。
HIV治療は高額になるイメージがあるかもしれませんが、日本には手厚いサポート制度があります。
- 公的医療保険:まず、通常の病気と同じく保険が適用されます(自己負担1~3割)。
- 高額療養費制度:1ヶ月の医療費が一定の上限額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。
- 自立支援医療(更生医療):HIVによる免疫機能障害の治療(抗HIV療法など)は、この制度の対象です。申請が認められると、自己負担が原則1割に軽減され、所得に応じた月額上限が設定されます。
ほとんどの方がこれらの制度を利用し、月額数千円~2万円程度の自己負担で専門的な治療を継続しています。詳しくは専門病院のソーシャルワーカーにご相談ください。
あなたの不安にお答えします(FAQ)
Q1. 陽性になったら、会社や家族に知られてしまいますか?
A. いいえ。医療機関や保健所には厳格な守秘義務があります。ご本人の同意なく、検査結果や病気のことが会社やご家族に伝わることは絶対にありません。公的制度(自立支援医療など)の利用も同様です。
Q2. もし妊娠していたら、赤ちゃんは大丈夫ですか?
A. 専門医と連携し、妊娠中から適切な抗HIV薬治療を行い、帝王切開での分娩、授乳を避ける(人工乳にする)などの対策を講じることで、母子感染のリスクは1%未満(多くの報告では0.5%以下)にまで抑えられます。まずは速やかにご相談ください。
Q3. 陽性になったら、もう寿命は短いのですか?
A. いいえ。現在の治療(ART)を適切に続ければ、HIVに感染していない人とほとんど変わらない寿命を期待できます。HIVは「死の病」ではなく、「コントロールできる慢性疾患」へと変わりました。
モイストクリニックができること(私たちの役割)
私たちは、あなたの「道案内人(ナビゲーター)」です。
スクリーニング検査で「陽性」の可能性が示された時、多くの方が目の前が真っ暗になり、次に何をすべきか分からなくなってしまいます。
私たちの最も重要な役割は、そこで立ちすくむあなたの手を引き、「次に進むべき正しい道」を具体的にお示しし、「専門治療というゴール」まで責任を持って送り届けることです。
- 検査結果の意味を、分かりやすく丁寧にご説明します。
- 必要な確認検査を迅速に手配し、確定診断までのプロセスをサポートします。
- 治療実績が豊富なエイズ診療拠点病院へ、当院が責任を持ってご紹介します。
- あなたが抱える不安(パートナーのこと、費用のこと、将来のこと)について、一つひとつお答えし、専門家の窓口へお繋ぎします。
一人で抱え込まないでください。まずは私たちにご相談ください。
監修医師・参考文献
監修:モイストクリニック院長 金谷正樹
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療を行っている。日本性感染症学会の会員として活動しており、得意分野である細菌学と免疫学の知識を活かして、患者さまご本人とパートナーさまが幸せになれるような医療を目指している。
【この記事を読んだあなたへ】
「陽性」という言葉は、とても重く、恐ろしいものに感じるかもしれません。しかし、それは「絶望」の宣告ではなく、「治療を始めるべきだ」という「次へのサイン」です。今は正しい情報が、あなたの何よりの武器になります。私たちはその武器をお渡しし、最後まで伴走します。
参考文献・公的情報
- 日本エイズ学会『診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020』
- 厚生労働省「HIVとエイズ」:相談・検査体制
- 厚生労働省「高額療養費制度」
- 厚生労働省「自立支援医療(更生医療)」
- CDC (アメリカ疾病予防管理センター)「Clinical Guidance for PEP」
- CDC「Undetectable = Untransmittable (U=U)」
- WHO (世界保健機関)「HIV Treatment for Adults」