妊娠と梅毒(先天梅毒)のリスクと、安全な検査・治療法

最終更新:2025-10-19/監修:金谷 正樹 医師(日本性感染症学会 会員)

要点(30秒で理解)

  • 妊娠中に梅毒へ感染すると胎盤を介して胎児へ感染し、死産・早産・新生児死亡・先天梅毒の原因になります。早期の検査と治療が最重要です。
  • 妊婦健診では初期に梅毒の血清検査(RPR/TP)が組み込まれています。陰性でも、リスクが高い場合は妊娠後期や分娩時に再検が推奨されます。
  • 治療はペニシリン(ベンザチンベンジルペニシリン等)が唯一の有効薬。産科(または高次医療機関)で実施されます。ペニシリンアレルギーでも減感作してペニシリンで治療します(代替薬は胎児予防効果が不十分)。
  • 治療後はRPR定量で経過をフォロー。必要に応じ胎児超音波で合併症所見(胎児肝腫大・胎盤肥厚など)を確認します。

目次

  1. 妊娠と梅毒:なぜ危険か
  2. いつ・どの検査を受ける?
  3. 妊娠中の安全な治療
  4. 治療後の再検査と胎児フォロー
  5. パートナーの検査・治療も必須
  6. 受診の目安(チェックリスト)
  7. 当院の妊娠中対応(モイストクリニック恵比寿)
  8. よくある質問(FAQ)
  9. 参考情報・出典

1. 妊娠と梅毒:なぜ危険か

梅毒は梅毒トレポネーマによる感染症で、妊娠中の感染は胎盤を通じて胎児へ伝播します。放置すると、死産・早産・新生児死亡・先天梅毒など重大な転帰につながるため、早期検査・早期治療が母児の安全に直結します。

2. いつ・どの検査を受ける?

妊婦健診初期の検査が基本です。ただし、感染機会があれば妊娠後期や分娩時の再検査も重要になります。

  • 初回妊婦健診: わが国の妊婦健診では初期に梅毒血清検査(RPR/TP 系)を実施する枠組みが示されています。
  • 再検査の重要性: 初回で陰性でも、妊娠中に再暴露(新たな感染機会)や高リスク(パートナーの感染等)がある場合は、妊娠後期(約28週)や分娩時の再検が強く推奨されます。
  • 検査の中身: RPR(非特異的)とTP(特異的)の2種類を組み合わせて判断します。

梅毒検査(RPRとTP)の役割

検査項目正式名称(例)検査の目的・特徴
RPRRPR法(定性・定量)病勢の指標。 活動性を反映。
治療により数値(抗体価)が低下する(例: 1:32 → 1:8)。
治療後の効果判定に用いる。
TPTP法、TPPA法感染の有無。 過去の感染でも陽性。
一度陽性になると、治療後も(多くの場合)生涯陽性のまま。

→ 両輪で判定し、不一致時は別形式のTP(TPPA 等)で確認します。

  • ウィンドウ期: 暴露直後は陰性でも2〜6週間で陽性化が進みます。医師の指示で再検の時期を決めましょう。(詳細は「RPRとTPの見方」へ

当院の検査

梅毒検査(RPR定量+TP)¥4,500/最短翌日で結果。土日祝も22:00まで・恵比寿駅徒歩3分。予約は[LINEで24時間]可能です。

3. 妊娠中の安全な治療

妊娠中の梅毒治療は、胎児への安全性が確立されたペニシリンが唯一の選択肢であり、産科(または連携する高次医療機関)で実施されます。

  • 第一選択はペニシリンのみ: 胎児感染の治療・先天梅毒の予防が確認されているのはペニシリン G のみです。病期に応じ推奨用法で投与します。
  • アレルギーがある場合:減感作(デセンシタイゼーション)という処置を行い、ペニシリンで治療します。これは入院管理下で行われるのが一般的です。
    • テトラサイクリン系は妊娠後期で禁忌、エリスロマイシン/アジスロマイシンは胎児治療に十分ではありません。
  • Jarisch–Herxheimer 反応: 治療直後に発熱・子宮収縮などが起きることがあり、早産・胎児機能不全のリスクに注意が必要です。治療を遅らせる理由にはなりません。症状があれば速やかに産科へ連絡します。

4. 治療後の再検査と胎児フォロー

治療効果はRPR(抗体価)で判定します。診断・治療が妊娠後半になった場合は、胎児の超音波検査も必要です。

  • RPR定量で効果判定: 4倍低下(例:1:16→1:4)を目安に有効性を評価。力価の一過性上昇や低力価残存はあり得るため、医師の指示で時期を区切って再検します。
  • 超音波での胎児評価: 妊娠後半で診断・治療する場合は、胎児肝腫大・腹水・胎盤肥厚などの所見(先天梅毒を示唆)を産科でチェックします(ただし治療を遅らせない)。
  • 再感染の予防: 治療後もコンドームの使用が重要です(覆えない部位の感染リスクは残る点に注意)。

5. パートナーの検査・治療も必須

母体の治療が成功しても、パートナーが未治療では再感染のリスクが残ります。ピンポン感染を防ぐため、必ず同時に検査・治療を受けてください。

  • ピンポン感染の危険性: 妊婦本人だけが治療しても、パートナーから再び感染(ピンポン感染)すれば、胎児へのリスクが再び発生します。
  • パートナーの検査: 症状がなくても必ず検査を受けてください。
  • 同時治療: パートナーが陽性の場合、同時にペニシリン等で治療します。
  • 治療が終わるまで: 治療が完了し、医師が安全と判断するまで性行為(オーラル、アナル含む)は避けてください。

6. 受診の目安(チェックリスト)

妊婦健診を受けていない方、または妊娠中に感染リスクがあった方は、速やかな検査が必要です。

  • 初回妊婦健診を受けていない / 結果が不明
  • 妊娠中に新しいパートナー、複数パートナー、または他のSTIの診断があった
  • パートナーが梅毒陽性 / 検査を受けていない
  • 口内・性器・肛囲の潰瘍/掌蹠の発疹など梅毒を疑う症状

→ すぐ検査し、必要に応じて後期・分娩時にも再検しましょう。

7. 当院の妊娠中対応(モイストクリニック恵比寿)

当院は、妊娠中の方の梅毒検査と、産科へのスムーズな連携(情報提供)に特化しています。

迅速検査の実施

  • RPR(定量)+TPを同時実施
  • 料金:¥4,500
  • 結果判明:最短翌日

診療時間とアクセス

  • 9:00–22:00(年中無休)/外来14:00–22:00
  • 恵比寿駅 西口 徒歩3分(アクセス詳細

陽性時の連携

  • 検査結果(RPR抗体価を含む)が出た時点で、かかりつけの産科医への紹介状(診療情報提供書)を即日作成します。
  • 妊娠週数やリスクを考慮し、必要な情報(検査結果の解釈、推奨される治療の一般論)を産科医へ正確に伝達します。

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8. よくある質問(FAQ)

Q1. 妊娠中に陽性でした。胎児への影響は?

A. 未治療だと死産・早産・先天梅毒のリスクが上がりますが、早期にペニシリンで治療すれば多くは予防可能です。まずは迅速に検査し、陽性ならすぐに産科で治療計画を立てることが重要です。

Q2. いつ再検査すればいい?

A. 初回健診で陰性でも、高リスク(パートナーの感染、妊娠中の新たな感染機会など)の方は妊娠28週前後と分娩時の再検が推奨されます(各国指針)。医師と計画を立てましょう。

Q3. ペニシリンアレルギーがあります。どう治療しますか?

A. 入院設備のある高次医療機関(産科)で「減感作」を行い、ペニシリンで治療します。妊娠中に推奨できる代替薬はありません。

Q4. 治療後に熱やお腹の張りが出ました。

A. Jarisch–Herxheimer 反応の可能性があります。治療を受けている産科へすぐ連絡してください。治療を中断・延期する理由にはなりません。

Q5. 授乳中の治療は?

A. 個別に薬剤を評価します。授乳可否は処方薬と乳児の状態で判断するため、診察時にご相談ください(一般論としてペニシリン系は授乳中でも多くの症例で使用可能ですが、個別判断が必要です)。

参考情報・出典