大切なパートナーのために知ってほしいこと
ヘルペスと診断されても、安全な関係を築くことは可能です。それには「正しい知識」と「お互いの協力」が不可欠です。
- 症状(水ぶくれ・違和感)がある間は性行為(オーラル含む)を中止することが、最も重要なルールです。
- 抑制療法(お薬の毎日内服)は、ご自身の再発を減らすだけでなく、パートナーへの感染リスクも低下させることが報告されています。
- コンドームやデンタルダムはリスクを減らしますが、ゼロにはできません。①症状時の停止、②抑制療法、③バリア法を組み合わせることが最善です。
- 当院では、お二人でのご相談も歓迎しています。専門家から客観的な情報をお伝えします。
この記事でわかること
- 1. 性行為はいつ再開できる?(再開の目安)
- 2. 感染予防の「3つの柱」
- 3. パートナーへの「伝え方」と心の準備
- 4. パートナーの検査は必要?(検査の使い分け)
- 5. セーファーセックスの実践チェックリスト
- 6. よくあるご質問
- 7. 当院のサポート(カップルでのご相談)と費用
- 8. 参考文献
1. 性行為はいつ再開できる?(再開の目安)
結論: 症状が「完全になくなってから」です。
水ぶくれ、ただれ、かさぶたが全て消え、ピリピリ・ヒリヒリといった前駆症状(違和感)も完全になくなった状態が再開の目安です。迷う時は「念のため、あと数日待つ」という慎重さが大切です。
- なぜ?:症状が出ている間はウイルス量が最も多く、感染リスクが最大になるためです。
- 注意点:症状がない時でも、皮膚や粘膜からウイルスが排出される(無症候性排出)ことがあります。そのため、治った後もコンドームの併用が推奨されます。
2. 感染予防の「3つの柱」
結論: 1つの方法で完璧に防ぐことはできません。以下の3つを組み合わせることが、リスクを最小限にする最善の方法です。
- 行動(症状がある時は中止)
これが最も重要です。病変や前駆症状がある間は、オーラル、アナルを含め、一切の性的な接触を避けてください。 - 抑制療法(毎日お薬を飲む)
感染している側が毎日抗ウイルス薬(バラシクロビルなど)を飲む治療法です。ご自身の再発を70-80%減らすだけでなく、パートナーへの感染リスクも有意に低下させたという信頼できる研究報告(NEJM)があります。 - バリア法(コンドーム・デンタルダム)
コンドームは、覆われている部分の感染リスクを減らします。しかし、太ももの付け根など、コンドームで覆えない部分にも病変が出ることがあるため「100%安全」ではありません。オーラルセックスの際は、デンタルダムの使用が推奨されます。
3. パートナーへの「伝え方」と心の準備
これは最も勇気がいるステップですが、信頼関係の基本です。パニックにならず、責めず、「事実」と「対策」と「協力の依頼」をセットで伝えることが重要です。
伝える際は、感情的になりやすい電話やテキストではなく、お互いがリラックスして話せる時間を確保することをお勧めします。
会話のステップ例
- 事実を伝える(冷静に)
「大切な話があるの。検査を受けたら、性器ヘルペスと診断された。これは性感染症の一種だけど、とてもありふれたウイルスだと医師から聞いている」 - 相手への配慮と基礎知識(責めない)
「症状がない時でも感染することがあるから、いつ・どこで感染したかを特定するのは難しい。あなたを責めるつもりは全くないし、私も責めてほしくない」 - 具体的な予防策(あなたが行動していること)
「あなたのことを守るために、私にできる予防策を調べて、もう始めている。
・まず、症状がある時や違和感がある時は、絶対に性行為をしない。
・うつすリスクを下げるために、毎日お薬を飲む『抑制療法』を始めた。
・治った後も、コンドームは必ず使いたい」 - 協力の依頼(二人で向き合う)
「これが私たちの新しいルールになる。もし不安だったら、今度一緒にクリニックに行って、専門の先生から話を聞いてみない?」
4. パートナーの検査は必要?(検査の使い分け)
無症状のパートナーに、一般的なスクリーニング検査(症状がないのに検査すること)は推奨されていません。しかし、「不一致カップル(一方が陽性、一方が不明)」の場合は、相手の状況を知るために検査が選択肢となります。
- パートナーも検査する?:パートナーが「自分も過去に感染していないか知りたい」と希望する場合、タイプ特異的IgG抗体検査(血液検査)が選択肢になります。
- 注意点:この血液検査は、数値が低い場合(低インデックス:例 1.1–3.0)、「偽陽性(本当は陰性なのに陽性と出る)」が多いことが知られています。そのため、陽性と出た場合は、BiokitやWestern blotといった別の確認検査が望ましい場合があります。
- 非推奨の検査:IgM検査(不正確なため非推奨)。無症状時の綿棒検査(陰性でも感染を否定できないため非推奨)。
5. セーファーセックスの実践チェックリスト
お互いの体調に敏感になり、バリア法を習慣化しましょう。
- □ コンドームを毎回正しく使用する(挿入前から装着し、途中で外さない)。
- □ オーラルセックスではデンタルダム(ラテックス/ポリウレタンの薄いシート)を使用する。
- □ 性具(おもちゃ)を共有する場合は、使用の都度、洗浄し、新しいコンドームを装着する。
- □ お互いに「ピリピリする」「違和感がある」といった再発のサインに敏感になり、その日は中止する勇気を持つ。
6. よくあるご質問
Q. 「完全に治った」の判断は?
A. 痛み、水ぶくれ、ただれ、かさぶたが全て消失し、ピリピリ感などの前駆症状もなくなった状態が目安です。迷う時は、念のため数日間は様子を見るか、受診して医師に確認してもらうと安心です。
Q. コンドームを使えば100%安全ですか?
A. いいえ、100%ではありません。コンドームはリスクを大幅に低減させますが、覆われていない皮膚(太ももの付け根など)からもウイルスが排出される可能性があるためです。だからこそ、「症状がある時は中止する」「抑制療法を併用する」といった他の対策との組み合わせが重要になります。
Q. パートナーにどう切り出せばいいか分かりません…
A. 本文の「伝え方」のステップを参考に、まずはご自身の気持ちを整理してみてください。大切なのは「責めないこと」と「予防策を提示すること」です。当院では、お二人で受診していただき、専門家から客観的な事実と予防策をご説明することも可能です。一人で抱え込まず、ご相談ください。
7. 当院のサポート(カップルでのご相談)と費用
お一人でのご相談はもちろん、パートナーとご一緒の来院も歓迎しています。専門家が中立的な立場で、お二人の不安や疑問にお答えします。
当院のサポート内容
- 正確な診断と治療:専門医の視診(必要時PCR検査手配)に基づき、最適な治療(エピソード療法・抑制療法)を設計します。
- カップルでの説明:パートナーの方の疑問(「自分は大丈夫か?」「今後どうすればいいか?」)に対し、医学的根拠に基づいて客観的にご説明します。
- 予防プランの作成:お二人の状況に合わせ、抑制療法やバリア法の使い方など、具体的な予防プランを一緒に考えます。
費用(すべて税込/初再診料込)
- 診察料:4,500円(お二人で来院されても、診察対象の方1名分です)
- 治療(初発):7,980円
- 治療(再発):4,480円
- 抑制療法(1か月):13,440円
8. 参考文献
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 – Herpes.(抑制療法による伝播低下、症状時の性交回避、パートナー検査の位置づけ)
- Corey L, et al. N Engl J Med. 2004 Jan 15;350(1):11-20. Once-daily valacyclovir to reduce the risk of transmission of genital herpes.(HSV-2不一致カップルにおけるバラシクロビル伝播リスク低下のRCT)
- International Union against Sexually Transmitted Infections (IUSTI). IUSTI European guideline for the management of genital herpes (2024).(病変・前駆中は性交回避、コンドームの一貫使用など行動カウンセリング)
- NHS (UK). Genital herpes.(症状が消えるまで性行為を控える、性具共有のルール)
- CDC. Herpes – CDC Detailed Fact Sheet.(コンドームの限界、無症候性排出、口→性器(HSV-1)伝播)
