ここだけでもチェック!
症状
硬く無痛の潰瘍が性器や口周りに出現
解決法
ペニシリンG(筋肉注射)or ドキシサイクリン、アジスロマイシン
原因
膣、オーラル、アナルセックスによる感染、母子感染、血液感染など
予防法
コンドームの使用 もしくは 定期的な性病検査
目次
梅毒とは
梅毒はスピロヘータの一種であるTreponema pallidumというらせん状桿菌による感染症であり、これが体内に侵入すると、多様な症状を引き起こす可能性があります。特に日本では、2010年以降新規の梅毒患者数が増加しています。
日本における疫学
2017年の新規梅毒患者数は5,770名で、44年ぶりに5,000人を超えました。特に都市部(東京や大阪など)での感染が多く、男性では25~49歳、女性では20~29歳が感染のピークです。2013年以降、男性同性間の感染よりも男性異性間、女性異性間の感染が増加しています。これと並行して、先天梅毒のケースも増加しています。
感染経路
性的接触による感染
梅毒トレポネーマは精液や膣分泌液、血液などに存在しています。感染経路は主として性行為中の感染部位と粘膜や皮膚との直接接触です。特に1期梅毒で出現する硬性下疳や2期梅毒の粘膜斑、扁平コンジローマなどの症状が出た場合、感染率は約30%と非常に高いです。
すでに感染している人との性行為(セックスやオーラルセックス、アナルセックス)で感染します。特にアナルセックスによる感染リスクは非常に高いとされているため注意が必要です。
垂直感染
妊娠中の女性が感染している場合、胎児に感染する可能性もあります。
血液感染
感染した血液製品の輸血や、注射器の共有によっても感染する可能性があります。
性器間の感染とは限らない
活動性の病変が口唇、口腔内、乳房、または陰部に存在する場合、キスや単純な触れ合いだけで感染するリスクがあります。男性同性間でのケースにおいて、オーラルセックスのみが感染経路であったとされる事例も報告されています。
潜伏期間
梅毒の潜伏期間は感染が成立してから症状が現れるまでの時間を指します。この期間は非常に変動が大きく、一般的には平均で21日間とされていますが、短い場合は10日、長い場合は90日にも及ぶことがあります。この潜伏期間が過ぎると、最初に1期梅毒の典型的な症状である硬性下疳が感染部位に出現することが多いです。
潜伏期間中には明らかな症状が出ない場合も多く、特に自覚症状がないために感染が拡大するリスクがあります。そのため、リスクのある性行為を行った場合や感染の可能性があると考えられる状況であれば、潜伏期間を待たずに専門医による検査を受けることが推奨されています。早期の診断と治療によって、梅毒の長期的な健康への影響を最小限に抑えることが可能です。
症状
第1期梅毒(感染から約3週間後)
1期梅毒では、感染が成立した後、平均で21日間(範囲は10~90日)の潜伏期間を経て、感染部位に初期硬結と称される丘疹が現れます。この丘疹は進行すると、硬性下疳と呼ばれる潰瘍に変わります。この潰瘍は一般的に無痛性で、未治療の場合でも4~6週間で自然と治癒する可能性があります。そのため、特に女性や男性同性間で肛門に硬性下疳が形成された場合、見過ごされやすいです。
加えて、硬性下疳には局所的な無痛性リンパ節腫脹を合併することがあります。ただし、混合感染が起きた場合、この状態が有痛性に変わることがあるとされています。
早期の診断と治療が重要であり、無痛性の潰瘍やリンパ節腫脹に気づいた場合は、速やかに専門の医療機関での検査と治療が必要です。
第2期梅毒(感染から約3か月後)
2期梅毒は、硬性下疳が出現した後、約4~10週で症状が出現する次のフェーズです。この期間には、全身に菌が播種しているため、非常に多彩な症状が認められます。最も一般的な症状は皮疹であり、90~95%以上の患者に出現します。これらの皮疹は通常、左右対称で、3~10mmの境界明瞭な紅色斑や丘疹が典型的です。手掌や足底に特有の皮疹が見られることも多く、瘙痒感は少ないが、40%の症例で瘙痒感が報告されています。
この期間には、他にも扁平コンジローマ、脱毛、粘膜疹があり、特に粘膜疹は10~15%の患者で見られます。これらは主に口腔内や陰部に出現し、無痛性です。また、1~6カ月以内に自然治癒することが多いですが、治療が不適切な場合には梅毒がさらに進行する危険性があります。
全身症状としては、咽頭痛、発熱、頭痛、体重減少、倦怠感、食思不振、全身性リンパ節腫脹があります。特に滑車上リンパ節の腫脹は診断的意義が高いとされています。さらに、糸球体腎炎、ネフローゼ、髄膜炎、眼梅毒、内耳梅毒、骨膜炎、関節炎、肝炎なども報告されています。
このように、2期梅毒は多彩な症状を呈するため、早期の診断と治療が重要です。
また、2期梅毒のごく一部では,悪性梅毒と呼ばれる破壊性病変をきたすことがあります。この場合,皮膚に多発性潰瘍をきたしたり,骨病変をきたしたりすることが知られています。
第3期梅毒(感染から3年以上後)
未治療の梅毒が進行すると、1〜30年後に約1/3の症例が3期梅毒、別名晩期梅毒へと進展します。この段階での主要な三つの症状は心血管系梅毒、ゴム腫、そして神経梅毒です。20世紀初頭の研究ではこれらの症状がゴム腫16%、心血管系梅毒10%、神経梅毒6.5%で認められたものの、現在では抗菌薬の普及により、特に心血管系梅毒とゴム腫は非常に稀になっています。
心血管系梅毒では、特に上行大動脈の拡張や動脈瘤形成、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈疾患が典型的です。これらの症状は、特に高齢者で原因不明の動脈瘤として現れる場合、梅毒の可能性を鑑別診断に含める必要があります。
一方、ゴム腫は壊死性肉芽腫性病変で、皮膚、粘膜、骨を中心に発生しますが、その他の臓器にも影響を及ぼす可能性があります。ゴム腫は生検で菌体を認めることは稀であり、結核やサルコイドーシス、深在性真菌感染などとの鑑別が必要です。ゴム腫が引き起こす主な問題は局所の組織破壊で、抗菌薬治療には通常速やかに反応します。
神経梅毒
以前に比べ、神経梅毒が感染の早期段階から中枢神経に影響を与えることが明らかになっています。早期神経梅毒では、脳脊髄液、脳血管、髄膜に主に浸潤します。この段階で未治療の患者の30~50%には髄液の異常が、さらに25%にはT. pallidum菌体が検出されています。ただし、これが症状を示す髄膜炎に進行するのはわずか1~2%で、大部分は無症候性です。
後期神経梅毒においては、脳や脊髄が主な病変箇所で、進行麻痺や脊髄癆が発症することがあります。感染から症候性髄膜炎が出るまでの一般的な期間は1年以内、脳血管炎は10年以内、進行麻痺や脊髄癆はそれぞれ20年、25〜30年が必要です。
無症候性神経梅毒(ただ髄液の異常がある場合)が症候性に進行するのは、未治療で10年以内に約20%とされています。他の患者は自然に治癒するか、無症候性で推移します。
眼梅毒や内耳梅毒も、神経梅毒に合併する場合とそうでない場合があります。眼梅毒では、眼の任意の部位が影響を受ける可能性があり、特にブドウ膜炎が一般的です。内耳梅毒では、側頭骨の骨炎から耳の構造や内耳神経が破壊され、難聴、耳鳴、めまいが引き起こされる場合があります。
梅毒と口内炎
梅毒と口内炎は異なる症状であり原因も違いますが、特定の状況下では重なる場合があります。梅毒は性感染症の一つで、初期症状としては一般的に硬い、無痛の潰瘍(硬性下疳)が性器や口周りに出現することがあります。進行すると、多くの体系に影響を及ぼす可能性があり、未治療の場合は後期梅毒を引き起こすこともあります。
一方で、口内炎は口腔内に痛みを伴う潰瘍が出現する状態で、ストレス、食物の刺激、特定の病状や薬剤など、多くの原因が考えられます。通常、口内炎はウイルスやバクテリア、免疫系の反応によって引き起こされる場合が多いです。
梅毒の初期または二次期においては、口内もしくは口唇に潰瘍が出現することがあり、この点で口内炎と類似していると言えます。しかし、梅毒による口内の潰瘍は一般に無痛ですので、痛みが伴う場合は他の原因を考慮する必要があります。
両者が重なる可能性もありますが、それぞれ独立した診断と治療が必要です。梅毒の疑いがある場合、特定の血液検査と抗生物質による治療が通常行われます。口内炎の場合は、その原因に応じた対症療法が多く施されます。したがって、いずれの症状も専門の医療機関で診断と治療を受けることが重要です。
梅毒と皮膚症状
皮膚症状は、特に梅毒の初期と二次期において一般的です。
初期梅毒:最初の症状は通常、硬性下疳(ちゃんくろう)と呼ばれる無痛の潰瘍です。この潰瘍は、感染部位(通常は性器、口、または肛門)に出現します。
二次梅毒:数週間から数ヶ月後には、皮疹、粘膜症状、無痛の口内潰瘍など、より広範な皮膚症状が現れることがあります。この皮疹は多様で、全身に広がる場合もあります。
基本的に梅毒にかかったかどうかを知る切っ掛けとして一番多いのは皮膚症状になります。
梅毒の検査
梅毒の診断は通常、臨床的な症状や経過といくつかの検査方法に基づいて行われます。しかし、梅毒の原因菌であるT. pallidumは人工培地で培養できないため、直接的な菌体の確認は困難です。このため、多くの場合、診断は血清検査に依存します。
非トレポネーマ検査
- RPR(Rapid Plasma Reagin)とVDRL(Venereal Disease Research Laboratory) が一般的です。
- 感染後3週から6週で陽転するため、初期梅毒の場合、陰性となる可能性がある。
- 偽陰性はprozone現象や特定の共感染(例:HIV)で起きることもある。
- 生物学的偽陽性(BFP)が出ることがあり、特に妊婦、高齢者、他の感染症や自己免疫性疾患の患者で報告されている。
トレポネーマ検査
- TPLA、TPHA、CLEIA、FTA-ABS などが代表的な方法です。
- 非トレポネーマ検査よりも感度は高い。
- 偽陽性は稀で、疾患特異性が非常に高い。
直接的な菌体の確認
- 暗視野顕微鏡、特殊染色(パーカーインク、鍍銀、ギムザ染色)、蛍光抗体染色、PCR法 などが存在します。
- 実施可能な施設は限られている。
診断が確定したら、HIVを含む他の性感染症(STD)の検索と、性行為におけるパートナーの梅毒感染の評価も重要です。特に、早期梅毒と診断された場合、過去90日以内に性行為のあったパートナーにも梅毒血清検査が推奨されます。
治療
梅毒の治療は主に抗生物質によって行われます。各病期に応じて選択される治療法とその特性について説明します。
初期梅毒(1期・2期)
- ペニシリンG が第一選択薬とされています。
- 一回の筋肉注射で効果があり、通常は症状が改善します。
- ペニシリンアレルギーの場合は、ドキシサイクリン や アジスロマイシン が代替薬として使用されることがある。
潜在梅毒
- 早期潜在梅毒ではペニシリンGが推奨されます。
- 晩期潜在梅毒では、病態に応じて治療期間や投与量が調整されることが一般的です。
三期梅毒と神経梅毒
- 病態が進行すると、より長期的なペニシリン治療が必要とされる場合があります。
- 神経梅毒の場合、静脈内ペニシリン の投与が多く行われます。
妊婦における梅毒
- 妊婦で梅毒が確認された場合も、ペニシリンが最も推奨される治療法です。
- 胎児への感染を防ぐため、早期の診断と治療が重要です。
フォローアップ
治療後は定期的な血清検査が推奨されます。これは治療の効果を確認するため、また再感染を排除するためです。
以上の治療法は一般的なガイドラインに基づいていますが、個々の患者の状況に応じて治療プランは調整されるべきです。医師と密に連携を取り、適切な治療が施されるようにすることが重要です。