PEP(曝露後予防内服)を開始されたみなさん、まずは迅速な行動、お疲れ様でした。
「もしも」の不安を抱えて受診され、お薬を手にしたことで、少しホッとされている部分もあるかと思います。しかし同時に、これから始まる28日間の服用生活に対して、新たな疑問や不安も感じていらっしゃるのではないでしょうか。
PEPは、正しく飲みきれば非常に高い確率でHIV感染を防ぐことができる予防策です。しかし、そのためには「28日間、決められたルールを守り抜くこと」が何よりも重要になります。
この記事では、現在PEPを使用中の方が直面しやすいトラブルや、日常生活での具体的な注意点について、専門クリニックの視点から分かりやすく解説します。
万が一の時の対処法を知っておくことで、安心して28日間を完走しましょう。
【最重要】PEP成功のカギは「時間厳守」
PEPの効果を最大限に発揮し、HIV感染を阻止するために最も大切なこと。それは「体内の薬の濃度を一定に保ち続けること」です。
PEPは「28日間、毎日決まった時間」に飲み続けることで、初めて90%近い予防効果(あるいはそれ以上)を発揮します。
なぜ「時間厳守」がそれほど重要なのでしょうか?
抗HIV薬は、一度飲むと体の中でウイルスと戦う準備を整えますが、時間が経つにつれてその効果(血中濃度)は徐々に下がっていきます。
薬を定時に飲むことで、ウイルスを跳ね返す「バリア」が常に張られた状態になります。
しかし、飲み忘れたり時間が大幅にズレたりすると、バリアに「隙間」ができてしまいます。
ウイルスはその一瞬の隙間を狙って増殖しようとするため、隙間を作らないことが何よりの防御策なのです。
飲み忘れを防ぐための「3つの工夫」
28日間という期間は、短いようで長く感じるかもしれません。人間の記憶力だけに頼らず、以下のツールを活用して「飲み忘れゼロ」を目指しましょう。
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スマホのアラームをセットする
「薬」という表示が気になる場合は、「ビタミン」「会議」など自分だけの合図にするのがおすすめです。 -
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生活の動作とセットにする
「歯磨きの後」「就寝前」など、毎日必ず行うルーティンと組み合わせると忘れにくくなります。 -
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予備を持ち歩く
急な外泊や残業に備え、1〜2回分はお財布やポーチに入れて常に携帯しておきましょう。
完璧を目指すあまりストレスを感じすぎる必要はありませんが、この28日間だけは、お薬を生活の優先順位の1番に置いてくださいね。
飲み忘れ・嘔吐時の緊急対処法
人間ですから、どんなに気をつけていても「うっかり」は起こり得ます。
もし飲み忘れてしまっても、焦ってパニックになる必要はありません。冷静に、以下のルールに従ってリカバリーを行いましょう。
基本的には「気づいた時点ですぐに飲む」のが正解です。ただし、タイミングによって対応が異なります。
→ すぐに1回分を飲んでください。その後のスケジュールは変えず、次はいつもの時間に飲んでOKです。
→ 忘れた分は「スキップ(1回飛ばす)」してください。そして、いつもの時間に1回分だけを飲みます。
「2回分をまとめて飲む」のは絶対にやめてください。薬の血中濃度が高くなりすぎ、副作用のリスクが急激に高まります。
体調不良や副作用で、服用後に嘔吐してしまうことがあるかもしれません。この場合は「時間」が判断基準になります。
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まだ薬が吸収されていません。
もう一度、1回分を飲み直してください。
1時間以上経過してから吐いた場合:
すでに薬の成分は体に吸収されていると考えられますので、飲み直す必要はありません。次は通常通りの時間に服用してください。
※吐き気が強くて薬が飲めない状態が続く場合は、無理をせずすぐにクリニックへご連絡ください。制吐剤(吐き気止め)の処方などを検討します。
飲み合わせ注意!サプリや市販薬
PEPで使用するお薬(特にインテグラーゼ阻害薬など)は、他の薬やサプリメントとの相性が非常に重要です。
組み合わせによっては、お薬が体内で吸収されにくくなり、予防効果がガクンと落ちてしまうことがあります。
以下の成分が含まれるものは、PEP薬とくっついて吸収を邪魔してしまいます。
具体的によくある製品:
- マルチビタミン&ミネラル
- 貧血用の鉄剤
- 胃薬・制酸剤(成分をよく見てください!)
- ジム用のプロテイン(ミネラル配合のもの)
PEP薬を飲む時間の「前後2時間以上」あければ大丈夫な場合が多いですが、可能な限りこの28日間だけは中止することをおすすめします。
以下の市販薬は、用法用量を守れば一緒に飲んでも問題ないケースがほとんどです。
※製品によって成分が異なりますので、念のため医師または薬剤師にご確認ください。
「お酒を飲んではいけない」という決まりはありません。適量であれば薬の効果に影響はありません。
ただし、深酒をして「薬を飲むのを忘れた」「吐いてしまった」という事態になるのが一番のリスクです。
また、肝臓への負担を少しでも減らすため、この期間の大量飲酒は控えましょう。
「いつも飲んでいるこのサプリは大丈夫?」
「頭が痛いけど薬を飲んでいい?」
と迷ったら、自己判断せずにお気軽にLINEでご相談ください。製品のパッケージ写真を送っていただければ確認いたします。
副作用が出たら?(受診すべきサイン)
「強い副作用が出るのでは…」と不安に思う方も多いですが、ご安心ください。
現在処方されている新しい抗HIV薬は、ひと昔前の薬に比べて格段に副作用が少なく、安全性が高まっています。
- 吐き気、胃のムカムカ
- お腹がゆるくなる(下痢・軟便)
- 軽い頭痛、だるさ(倦怠感)
💡 対処法:
これらは体が薬に慣れる過程(飲み始めの数日〜1週間)で起こりやすく、自然に治まることがほとんどです。
生活に支障が出る場合は、吐き気止めや整腸剤、頭痛薬を一緒に飲んでコントロールしましょう。当院でも処方可能ですのでご相談ください。
極めて稀ですが、重篤なアレルギー反応や肝機能障害の可能性があります。以下の症状が出た場合は、服用を中止する前に直ちに医療機関へ連絡してください。
- ひどい発疹(全身のブツブツ、水ぶくれ)
- 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)
- 尿の色が異常に濃い(紅茶色など)
- 激しい腹痛や背中の痛み
- 筋肉の激しい痛みや脱力感
「副作用かな?それとも風邪かな?」と判断に迷う場合も、遠慮なくLINEでご相談ください。 あなたの体調に合わせて、最後まで飲みきれる方法を一緒に考えましょう。
PEP期間中の性行為と日常生活
PEP内服中の28日間、そして検査で陰性が確認されるまでの期間は、「まだ感染しているかどうかが確定していない期間(ウインドウ期)」でもあります。
ご自身だけでなく、大切なパートナーや周囲の人を守るために、いくつかのルールを守る必要があります。
Q. 性行為をしてもいいですか?
A. 基本的には控えることを強く推奨します。
もし行う場合は、最初から最後まで必ずコンドームを使用してください。オーラルセックスであっても同様です。
万が一、PEPが効かずに感染が成立してしまった場合、体内のウイルス量が一時的に爆発的に増える時期(急性期)に入ります。
この時期は非常に感染力が強く、パートナーへうつしてしまう危険性が最も高いのです。
「自分は薬を飲んでいるから大丈夫」と過信せず、結果が出るまでは「もしかしたら」を想定して行動しましょう。
日常生活での制限・注意点
普段通りの生活を送っていただいて構いませんが、以下の点だけは「陰性確認」が終わるまで控えてください。
あなた自身を守るだけでなく、
「大切な人を守るための優しさ」でもあります。
不安なことがあれば、いつでも私たちに相談してください。
28日後の検査とアフターケア
28日間の服用、本当にお疲れ様でした。
しかし、お薬を飲み終わった時点では、まだ「100%安全」と言い切ることはできません。
体内のウイルス量が検査で検出できるレベルになるまでには少し時間がかかります(ウインドウ期)。そのため、PEP終了後も必ず決められた時期に検査を受けてください。
お薬の服用終了です。飲み忘れなく完走できた自分を褒めてあげてください!
まずは一旦、HIV検査を行います。
また、このタイミングで梅毒、淋病、クラミジア、B型/C型肝炎など、他の性感染症も一緒にチェックすることをおすすめします。
※HIV以外の性病はPEPでは防げないためです。
ここでの検査が陰性であれば、今回の曝露によるHIV感染はなかったと確定診断できます。
これにてPEPプログラムは全て終了です。晴れて卒業となります!🎉
当院では、次回の検査時期が近づきましたらLINEなどでリマインドも可能です。「うっかり検査を忘れてしまった」ということがないよう、私たちがスケジュール管理をサポートします。
