その水ぶくれは性器ヘルペス?症状セルフチェックと男女別の見分け方

「性器に水ぶくれができた」「痛みやかゆみがある」
こうした症状は性器ヘルペスの可能性がありますが、実は感染していても無症状の人が多いことをご存じでしょうか。 性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)への感染によって引き起こされますが、初めて症状が出る「初発」と、繰り返し症状が出る「再発」で症状の重さが大きく異なります。

ここでは、ご自身の症状と照らし合わせられるチェックリストと、男女別・初発再発別の詳しい症状の違いについて解説します。

性器ヘルペスの特徴的症状チェック
  • 性器や肛門周辺に小さな水ぶくれ(水疱)が集まっている
  • 水ぶくれが破れて、浅い潰瘍(ただれ)になり痛む
  • 【初発】 38℃以上の発熱や全身のだるさ、激しい排尿痛がある(重症化しやすい)
  • 【再発】 ピリピリする違和感(前兆)の後に、小さい水疱が数個できる(軽症が多い)
  • 太ももの付け根(鼠径部)のリンパ節が腫れて痛む
※症状には個人差があり、全く無症状でウイルスを排泄しているケースもしばしば見られます。

1. 性器ヘルペスとは(概要と潜伏感染のメカニズム)

性器ヘルペス(Genital Herpes)は、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって、性器や肛門周辺に水疱や潰瘍などの病変を形成する性感染症です。
このウイルスの最大の特徴は、一度感染すると神経節(主に仙骨神経節)に生涯にわたって潜伏感染し、体調の変化などによって再活性化(再発)を繰り返す点にあります。

原因ウイルス:HSV-1型と2型の違い

従来、HSV-1型は「口唇ヘルペス」、HSV-2型は「性器ヘルペス」と大別されてきましたが、近年のオーラルセックスの一般化に伴い、境界は曖昧になっています。

  • HSV-1型 本来は上半身(口唇など)に感染。近年は性器への感染例が増加中。性器感染の場合、再発頻度は低い傾向にあります。
  • HSV-2型 主に性行為によって性器・肛門へ感染。再発を繰り返しやすく、性器ヘルペス再発例の多くを占めます。

「感染していても気づかない」無症候性感染の実態

性器ヘルペスの診断において臨床的に最も重要な事実は、「感染者の多くが無自覚である」ということです。
日本の報告において、HSV-2抗体陽性者(感染している人)のうち、自分が性器ヘルペスにかかっていると認識していた人はわずか10~20%に過ぎません。残りの8割以上は、無症状か、あるいは症状が軽すぎて「ただのかぶれ」などと誤認して過ごしています。

しかし、無症状であってもウイルスを排出(シェディング)していることがあり、知らぬ間にパートナーへ感染させてしまうリスクがあります。これが、性器ヘルペスの感染拡大が止まらない大きな要因です。

「初めて症状が出た」=「昨日うつされた」とは限りません

診療現場でよくある誤解に、「今日症状が出たから、直近の性行為でうつされたはずだ」というものがあります。医学的には、発症のパターンは以下の2つに区別されます。

初感染初発
ウイルスに初めて感染し、その直後(潜伏期間2~10日)に発症する場合。
症状が激しく、重症化しやすいのが特徴です。
非初感染初発
過去に感染していたがずっと無症状で潜伏しており、何らかのきっかけで今回初めて症状が出た場合。
初感染に比べて症状は軽い傾向があります。

つまり、パートナーが変わっていないのに突然発症したとしても、それは浮気などによる新規感染ではなく、数ヶ月〜数年前の感染が今になって顕在化した(非初感染初発)可能性も十分に考えられます。

2. 詳しい症状チェックリスト(皮膚・全身・合併症)

性器ヘルペスの症状は多岐にわたりますが、最も特徴的なのは「痛み(または痒み)」と「皮膚病変」のセットです。
以下に、部位や感覚ごとの詳細なチェックリストをまとめました。ご自身の状態と照らし合わせてください。

皮膚・粘膜に現れる症状

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水疱(水ぶくれ)の集簇(しゅうぞく)

直径1~3mm程度の小さな水ぶくれが、ブドウの房のように数個~多数集まって出現します。初期は透明ですが、次第に濁ってきます。

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浅い潰瘍(ただれ・びらん)

水疱は数日で破れ、皮膚がめくれたような赤い「ただれ」になります。この時期が最も痛みが強く、滲出液(汁)が出ます。

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鼠径リンパ節の腫脹

足の付け根(鼠径部)のリンパ節がグリグリと腫れ、押すと痛み(圧痛)を伴います。特に初感染時は両側が腫れることが多いです。

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尿道・膣からの分泌物

男性では尿道から透明~白色の膿が出ることがあります。女性ではおりものの増加や不正出血が見られることがあります。

⚠️ 水ぶくれが出る前の「前兆(プロドローム)」に注意

再発を繰り返す患者様の約半数は、皮膚に発疹が出る数時間~2日前に、患部に独特の違和感を覚えます。これを医学的に「前駆症状(prodrome)」と呼びます。

  • 患部が「ピリピリ」「チクチク」「ムズムズ」する
  • 太ももや臀部に電気が走るような神経痛がある
  • 局所的な熱感(ほてり)やかゆみ

この段階(水ぶくれが出る前)で抗ウイルス薬を服用することで、発症を未然に防いだり、症状を劇的に軽く済ませることが可能です(PIT療法)。この感覚を覚えたら、すぐに受診・服薬することが推奨されます。

全身症状・見逃してはいけない合併症

特に「初感染初発」の場合、ウイルス血症によりインフルエンザのような全身症状が出ることがあります。また、神経系への波及にも注意が必要です。

全身の症状(初発時に多い)
  • 発熱:38℃以上の高熱が出ることがあります。
  • 倦怠感・頭痛:全身のだるさ、筋肉痛、頭痛など。
  • ※再発時にはこれらの全身症状が出ることは稀です(5~12%程度)。
【要注意】神経系の合併症(排尿困難・髄膜炎)

以下の症状がある場合は重症化のサインであり、早急な医療介入が必要です。

  • 排尿困難・尿閉(Elsberg症候群):
    仙骨神経へのウイルス感染により、膀胱の神経が麻痺し「尿が出せない」「便秘になる」ことがあります。特に女性の初発例で見られ、導尿(カテーテル)が必要になることもあります。
  • 無菌性髄膜炎:
    激しい頭痛、吐き気、首の後ろが硬直して動かせない(項部硬直)などの症状。女性の初感染初発の約16~26%に合併すると報告されています。

【男性】初発と再発の症状・経過

男性の性器ヘルペスは、亀頭、包皮、陰茎体部(竿の部分)に好発します。
最大の特徴は、「初回の感染時は激痛を伴うが、再発時は軽い」というギャップと、「尿道炎(膿が出る)」を併発する場合がある点です。

初感染・初発

激しい痛みと全身症状

経過と見た目
感染から2~10日で発症。多数の小さな水疱ができ、すぐに破れて円形の潰瘍(えぐれた傷)が融合します。
痛みのレベル
★★★★★
激痛。排尿時に尿が傷に触れると飛び上がるほどの痛みを感じます。
随伴症状
  • 38℃以上の発熱
  • 鼠径リンパ節の腫れと圧痛
  • ヘルペス性尿道炎(透明~白っぽい膿が出る)
治癒までの期間
治療なしで2~3週間(薬があれば1~2週間に短縮可能)
再発(回帰発症)

局所的で軽い症状

経過と見た目
前兆(違和感)のあと、初発と同じ場所やその近くに1〜数個の水疱・浅いびらんができる程度です。
痛みのレベル
★★☆☆☆
ピリピリする、少ししみる程度。人によっては痒みのみの場合も。
再発の特徴
  • 発熱などの全身症状はほぼ無し
  • 男性は再発頻度が高い傾向(年4~5回以上繰り返すことも)
  • 精神的ストレスや過労で誘発される
治癒までの期間
1週間以内(薬があれば数日で消失)

ここに注意!男性特有の症状パターン

1. 「性病の膿」=クラミジアとは限りません

尿道から分泌物(膿)が出ると、クラミジアや淋菌を疑う方が多いですが、ヘルペスウイルスが尿道粘膜に感染した場合も「ヘルペス性尿道炎」として分泌物が出ます。
「淋病の検査は陰性だったのに痛みが続く」という場合、尿道内のヘルペス感染が疑われます。

2. 肛門・直腸の激痛(特にMSMの方)

男性同性間性的接触(MSM)がある場合や、会陰部から感染が広がった場合、肛門周囲や直腸内に病変ができることがあります。
直腸粘膜に感染すると、排便時の激痛、出血、裏重感(便が出きらない感じ)を伴う「ヘルペス性直腸炎」となり、生活に支障をきたすことがあります。

3. 男性のほうが「再発しやすい」データあり

海外の研究データでは、HSV-2感染において男性は女性よりも約20%再発回数が多いと報告されています。
「治ったと思ったらまたすぐできた」と悩まれる男性が多いのはこのためです。頻繁に繰り返す場合は、薬を毎日飲んで再発を抑える「抑制療法」の適応となります。

【女性】初発と再発の症状・経過

女性の性器ヘルペスは、解剖学的に粘膜面が広くウイルス量が増えやすいため、初感染時に男性よりも重篤化しやすい(急性型)という特徴があります。
「おしっこをするのが怖いほど痛い」「熱が出て動けない」といった症状は、初感染によく見られるサインです。

初感染・初発(急性型)

広範囲のただれと激痛

経過と見た目
外陰部(大陰唇・小陰唇)から膣の入り口、会陰部にかけて、左右両側に多数の水疱や浅い潰瘍が広がります。
痛みのレベル
★★★★★+
下着が触れるだけで激痛が走り、歩行困難になることも。排尿時は焼けるような痛み(灼熱感)を伴います。
全身症状・合併症
  • 38℃以上の高熱、頭痛、悪寒
  • 排尿困難・尿閉(痛くて出せない、神経麻痺で出ない)
  • 無菌性髄膜炎(激しい頭痛・吐き気)の合併率が高い(約16-26%)
治癒までの期間
治療なしで約3週間(重症例では入院適応となることもありますが、抗ウイルス薬で外来治療可能です)
再発

月経時などに小さく再発

経過と見た目
初発時のような広範囲の広がりはなく、外陰部やお尻に片側性に1~数個の小さな水疱・びらんができる程度です。
痛みのレベル
★★☆☆☆
少ししみる程度、または痒みや違和感のみ。日常生活への支障は少ないです。
再発の特徴
  • 発熱などの全身症状はほぼ無し
  • 月経ヘルペス:生理前後のホルモン変化が引き金となり再発しやすい
  • 疲労や性交の物理的刺激も誘因となる
治癒までの期間
1週間程度(自然治癒も早いが、薬でさらに短縮可能)

🚑 排尿困難(おしっこが出ない)場合

女性の初発時、激しい痛みで尿が出せなくなったり、ウイルスが仙骨神経に作用して尿意を感じなくなる(尿閉)ことがあります。
我慢すると膀胱炎や腎盂腎炎を併発する恐れがあるため、「痛くてトイレに行けない」場合はすぐに受診してください。一時的にカテーテル(管)で尿を出す処置が必要な場合があります。

👶 妊娠中のヘルペスについて

最も注意すべきは「分娩時の再発・初発」です。赤ちゃんが産道を通る際にウイルスに接触すると、「新生児ヘルペス」という重篤な病気にかかるリスクがあります。

  • 妊娠初期~中期:再発しても胎児への影響はほぼありません。
  • 分娩直前:病変がある場合は、安全のため帝王切開が選択されます。
  • 対策:過去に感染歴がある方は、必ず産婦人科医に伝えてください。妊娠後期に抗ウイルス薬を予防内服するケースもあります。

※補足:過去に口唇ヘルペス(HSV-1)にかかったことがある女性の場合、免疫の交差反応により、初めて性器ヘルペス(HSV-2)に感染しても症状が軽く済む、あるいは無症状のまま経過することが多いと報告されています。

5. 【総括】男女差・初発と再発の違いまとめ

ここまで解説した通り、性器ヘルペスの症状は「いつ感染したか(初発か再発か)」「性別」「ウイルス型(1型か2型か)」によって大きく異なります。
複雑な違いを整理するため、以下の比較表にまとめました。

比較項目 初感染・初発 再発(回帰発症)
症状の強さ 重症・激痛
歩行や排尿が困難になることも
軽症・違和感
ピリピリ感や軽い痛み程度
病変の範囲 広範囲・多発・両側性 局所的・数個・片側性
全身症状
(発熱・倦怠感)
あり(38℃以上の発熱など) ほとんど無し
治癒期間
(治療なしの場合)
約2~3週間 1週間以内
男女の特徴 女性の方が重症化しやすい
(排尿障害・髄膜炎リスク高)
男性の方が再発頻度が高い傾向
(HSV-2の場合、年4回以上など)

専門医から伝えたい「最も重要なこと」

性器ヘルペスの最大の問題点は、激しい症状が出ている時ではなく、むしろ「症状がない時」や「症状が軽い時」にあります。

  • 「治った」と油断しない:症状が消えてもウイルスは神経節に潜んでいます。体調管理を怠ると再発します。
  • パートナーへの配慮:「自分は無症状だから大丈夫」と思っていても、ウイルスを排泄している可能性があります。コンドームの使用や、再発抑制療法の検討が大切です。
  • 早期受診のメリット:「ピリピリする」という前兆の段階で薬を飲めば(PIT療法)、水ぶくれを作らずに治せる時代になっています。

「これってヘルペスかも?」と思ったら、恥ずかしがらずに専門クリニックへご相談ください。
痛みをすぐに取る治療と、再発させないためのコントロールプランをご提案します。

参考文献・出典

  • 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン2020」
  • 国立感染症研究所 (NIID) “Herpes simplex virus infections”
  • CDC (Centers for Disease Control and Prevention) “Genital Herpes – CDC Fact Sheet”
  • WHO (World Health Organization) “Herpes simplex virus fact sheets”
  • Ann Intern Med. 1995; “Genital shedding of herpes simplex virus among symptomatic and asymptomatic persons with HSV-2 infection”
この記事の監修者
金谷 正樹 院長

金谷 正樹 医師 / Masaki Kanaya

モイストクリニック 院長 / 日本性感染症学会 会員

国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックにて性感染症を中心に診療を行う。得意分野である細菌学と免疫学の知識を活かして、患者さまご本人とパートナーさまが幸せになれるような医療の実践を目指している。