クラミジア治療のポイント
- 治療は「抗菌薬(抗生物質)の内服」で行います。注射や塗り薬は基本的に使用しません。
- 日本国内の第一選択薬は「アジスロマイシン(1回のみ服用)」です。
- 海外の最新ガイドラインでは「ドキシサイクリン(7日間服用)」が推奨されるケースが増えています。
- パートナーも同時に治療しないと、ピンポン感染で再発します。
クラミジア感染症(性器クラミジア)は、細菌の一種であるクラミジア・トラコマティスによって引き起こされます。
細菌性の感染症であるため、適切な「抗菌薬(抗生物質)」を正しく使用すれば、後遺症を残さずに完治させることが可能です。
現在、日本や世界で標準的に使われている治療薬にはいくつかの種類があり、患者様のライフスタイル(1回で済ませたいか、確実に治したいか)や感染部位(性器、のど、直腸)によって最適な選択肢が異なります。
本ページでは、日本性感染症学会のガイドラインおよび米国CDCの最新知見に基づき、クラミジアの治療薬の特徴、正しい飲み方、そして治療中の注意点について専門医が解説します。
1. 標準的な治療薬:アジスロマイシンとドキシサイクリン
クラミジア・トラコマティスは細菌であるため、治療の基本は「抗菌薬(抗生物質)の内服」による除菌です。
日本のガイドライン(日本性感染症学会)では、主に以下の3系統の薬剤が推奨されています。
- マクロライド系(アジスロマイシンなど)
- テトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)
- ニューキノロン系(レボフロキサシンなど)
中でも、現在臨床現場で主に使用されているのは「アジスロマイシン」と「ドキシサイクリン」の2つです。それぞれの特徴を比較します。
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アジスロマイシン
日本国内 標準 |
【飲み方】 1回 1,000mg を1回飲むだけ(単回投与)
薬効が長く続くため、1回の服用で約1週間効果が持続します。「飲み忘れがない」という最大のメリットがあり、日本国内で最も広く処方されています。 |
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ドキシサイクリン
世界標準 (CDC) |
【飲み方】 1回 100mg を1日2回 × 7日間継続
7日間飲み続ける必要がありますが、菌を殺す力(微生物学的治癒率)が非常に高く、近年の国際的なエビデンスではアジスロマイシンよりも治療失敗率が低いと報告されています。 |
なぜ「1回」と「7日間」があるのか?(専門医の視点)
日本の考え方(コンプライアンス重視):
薬を7日間飲み続けるのは意外と難しく、途中でやめてしまう患者様も少なくありません。飲み残すと耐性菌の原因になったり、治癒しなかったりします。そのため、日本では「その場で1回飲めば確実に治療が終わる」アジスロマイシン単回療法が第一選択として推奨されています。
世界(米国CDC)の考え方(治癒率重視):
近年の研究で、特に直腸や咽頭においてアジスロマイシンの効果が若干劣る可能性が示唆されました。そのため米国CDCガイドライン(2021年)では、飲み忘れのリスクを管理できる前提で、より確実なドキシサイクリン7日間を第一選択に変更しました。
当院では、患者様のライフスタイルや感染部位に応じて最適な処方をご提案します。
その他の治療選択肢(代替レジメン)
アレルギー体質の方や、標準治療薬が合わない方、あるいは他の細菌との重複感染が疑われる場合には、以下の薬剤を選択することがあります。
当院では、患者様の既往歴や現在の内服薬を考慮し、最適な処方を行います。
| ミノサイクリン (テトラサイクリン系) |
標準治療と同等
【1回100mg 1日2回 × 7日間】 ドキシサイクリンと同じ系統の薬で、日本国内では長年広く使われています。めまい等の副作用がドキシサイクリンよりやや出やすい傾向がありますが、効果は非常に高く信頼できる薬剤です。 |
|---|---|
| レボフロキサシン (ニューキノロン系) |
アレルギー対応
【1回500mg 1日1回 × 7日間】 商品名「クラビット」などで知られます。マクロライド系やテトラサイクリン系にアレルギーがある場合の第一選択となります。 |
| シタフロキサシン (ニューキノロン系) |
難治・合併例
【1回50mg 1日2回 × 7日間】 商品名「グレースビット」。ニューキノロン系の中でも特に抗菌力が強く、標準治療で治癒しなかった場合や、耐性マイコプラズマの合併が疑われる場合に極めて有効な選択肢です。 |
| クラリスロマイシン (マクロライド系) |
妊婦可
【1回200mg 1日2回 × 7日間】 アジスロマイシンと同じ系統ですが、7日間飲み続けるタイプです。アジスロマイシンが合わない妊婦の方などに用いられます。 |
※トスフロキサシン(オゼックス®)などもガイドラインには記載されていますが、近年は上記の薬剤が優先される傾向にあります。
2. 感染部位ごとの治療戦略
クラミジアは細胞の中に寄生する特殊な菌であるため、塗り薬やうがい薬などの「局所療法」では治りません。全身に薬を行き渡らせる内服療法が基本ですが、感染している場所によって薬の効きやすさに違いがあることが分かってきています。
性器感染(尿道・子宮頸管)
最も一般的な感染部位です。男性は尿道、女性は子宮の入り口(頸管)に感染します。
治療方針:
アジスロマイシン(単回)とドキシサイクリン(7日間)、どちらを選んでも95%以上の高い治癒率が期待できます。
※海外データでは、男性尿道炎においてドキシサイクリンの方がわずかに成績が良いとされますが、実臨床ではアジスロマイシンも十分有効です。
咽頭感染(のど)
オーラルセックスにより感染します。のどの粘膜は薬の成分が浸透しにくく、性器に比べて治りにくい傾向があります。
治療方針:
一般的には性器と同じ治療を行いますが、アジスロマイシン単回では効果が不確実な場合があるため、医師の判断によりドキシサイクリン7日間を推奨するケースがあります。
直腸感染(肛門・直腸)
アナルセックス等により感染します。無症状のことが多いですが、放置するとしぶり腹や血便の原因になります。
このため、直腸感染が確定している場合、欧米ガイドラインではドキシサイクリンが強く推奨されています。
※もしアジスロマイシンで治療した場合は、治療後2〜3週間後に必ず「治癒確認検査」を受けることが推奨されます。
クラミジアの中でも「L型」という特殊なタイプに感染した場合、鼠径部のリンパ節が激しく腫れたり、重い直腸炎を起こしたりします(欧米のMSM層で流行)。
通常の菌よりも体の奥へ入り込む力が強いため、ドキシサイクリンを「21日間」という長期にわたって内服する必要があります。
3. 妊婦の方の治療について:安全な薬剤の選択
妊娠中にクラミジアに感染していることが分かった場合、お腹の赤ちゃんへの影響(流産・早産のリスク)や、出産時の感染を防ぐため、直ちに治療を開始する必要があります。
妊娠中は使用できる抗菌薬が限られますが、胎児に影響の少ない安全な薬を選択することで治療が可能です。
妊娠中に使用できる薬・できない薬
日本産科婦人科学会および性感染症学会のガイドラインに基づき、以下の基準で薬剤を選択します。
| ◎ 推奨 |
アジスロマイシン(1回服用) 世界中で妊婦への使用実績があり、安全性と有効性が確認されている第一選択薬です。1回飲むだけで済むため、つわり等で体調が優れない時期でも負担が少なく済みます。 |
|---|---|
| ○ 使用可 |
クラリスロマイシン(7日間服用) アジスロマイシンが使用できない場合の代替薬として用いられます。こちらも妊婦への使用は有益性が上回ると判断されています。 |
| × 使用不可 |
テトラサイクリン系・ニューキノロン系 ドキシサイクリン(歯や骨の発育への影響)やレボフロキサシン(軟骨への影響)などは、胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中は原則禁忌(使用禁止)です。 |
一般の方と異なり、妊婦さんの場合は「本当に菌が消えたか」を確認する再検査が必須とされています。
もし菌が残ったまま出産を迎えると、赤ちゃんが産道を通る際に感染し、結膜炎や肺炎を起こす危険性があるからです。
当院では、お薬を飲み終わってから3〜4週間後に必ず再検査を行い、陰性化を確認しています。
未治療のまま経膣分娩を行うと、新生児の結膜炎や肺炎の原因となります。帝王切開などの選択を迫られるケースもあるため、出産予定日までに完治させることが極めて重要です。
4. 【重要】パートナー治療と性交渉の制限
クラミジア治療において、薬を飲むことと同じくらい重要なのが「パートナーの治療」と「性行為の待機期間」です。これらを守らないと、薬を飲んでも意味がなくなってしまう可能性があります。
クラミジアは、一度治っても免疫ができないため、何度でも感染します。
あなたが治療して完治しても、パートナーが未治療で菌を持ったままだと、性行為によってすぐに再感染してしまいます。
これを「ピンポン感染」と呼びます。この悪循環を断ち切るためには、パートナーの方も症状の有無に関わらず検査・治療を受けることが絶対条件です。当院ではパートナー様との同時受診も推奨しています。
薬を飲んだ直後に菌が消えるわけではありません。アジスロマイシン(1回服用)の場合でも、成分が体に行き渡り、菌が完全に死滅して感染力がなくなるまでには約1週間かかります。
したがって、たとえ症状が消えても、服用後7日間が経過するまでは、コンドームの有無に関わらず性行為を控えてください。
(7日間服用の薬の場合は、飲み終わるまで控えてください)
※パートナーの治療が終わっていない場合は、自分の待機期間が明けても、パートナーが完治するまで性行為は控える必要があります。
5. 最新の研究動向と薬剤耐性への対策
性感染症の治療ガイドラインは、世界中の臨床データ(エビデンス)に基づき数年ごとにアップデートされています。 当院では、日本のガイドラインを基本としつつ、米国CDC(疾病予防管理センター)などの最新知見も取り入れ、患者様にとって最良の治療戦略を提案しています。
世界的な治療トレンドの変化(CDCガイドライン改訂)
2021年、米国CDCはクラミジア治療の第一選択薬を「アジスロマイシン(単回)」から「ドキシサイクリン(7日間)」へと変更しました。
これは近年の複数の研究で、特に男性の尿道炎や直腸感染において、ドキシサイクリンの方が菌を完全に消す確率(微生物学的治癒率)が高いことが証明されたためです。
※日本ではまだアジスロマイシンが主流ですが、当院では患者様の希望や再発リスクに応じて、ドキシサイクリン処方も行っています。
「薬を飲んでも治らない」場合の正体
クラミジアの治療薬を飲んでも症状(尿道のむず痒さや分泌物)が続く場合、実はクラミジアではなく「マイコプラズマ・ジェニタリウム (M. genitalium)」という別の菌に感染している可能性があります。
ここが重要:
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、クラミジア治療で使うアジスロマイシンに対して極めて高い耐性(薬が効かない)を持っています。
「治らないクラミジア」だと思っていたものが、実は「薬が効かないマイコプラズマ」だったというケースが近年急増しています。
この場合、シタフロキサシン(グレースビット®等)など別の抗菌薬への変更が必要です。
再感染を防ぐ「3ヶ月後リテスト」の推奨
治療により一度完治しても、パートナーとの治療タイミングのズレや、新たな感染機会により、数ヶ月以内に再びクラミジア陽性となる(再感染する)方が少なくありません。
ご自身の健康を守るため、米国CDCおよび日本のガイドラインでは、治療終了から約3ヶ月後にもう一度検査を受けること(リテスト)を推奨しています。
症状がなくても、念のための確認検査を受けることが、将来の不妊リスクなどを防ぐ最も確実な方法です。
金谷 正樹Masaki Kanaya
モイストクリニック 院長
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックにて性感染症を中心に診療を行う。
日本性感染症学会の会員として活動しており、得意分野である細菌学と免疫学の知識を活かして、患者さまご本人とパートナーさまが幸せになれるような医療の実践を目指している。
- 日本性感染症学会「性感染症診断・治療ガイドライン 2016」および2020年改訂版
- CDC – Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021
- Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021;384:2418-2427. (直腸クラミジアに対する治療比較試験)
- 厚生労働省「性感染症報告数(定点把握感染症)」および薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン
