クラミジア検査の適切なタイミング
- 感染機会から「2週間」あけて検査 ※最新の精密検査(NAAT)であれば最短24時間後〜数日でも検出可能ですが、確実性を高めるなら2週間後が推奨されます。
- 治療後の再検査は「3ヶ月後」を推奨 ※治ったかどうかの確認(治癒確認)は原則不要ですが、再感染のリスクが高いため3ヶ月後のスクリーニングが重要です。
「不安な行為があった翌日に検査しても意味がない?」
「薬を飲み終わったら、すぐに治ったか確認したい」
性感染症の検査には、感染していても陰性と出てしまう「ウィンドウ期(空白期間)」や、逆に治っているのに陽性と出てしまう期間が存在します。正しいタイミングで検査を受けなければ、感染を見逃したり、不要な再治療を行ったりすることになりかねません。
このページでは、日本性感染症学会や米国CDC(疾病予防管理センター)の最新ガイドラインに基づき、クラミジア検査を受けるべき正しい時期と、治療後の再検査の必要性について専門的に解説します。
1. 検査のウィンドウ期:感染から何日後にわかる?
クラミジアに感染した直後は、体内の菌量が非常に少ないため、どんなに精度の高い検査を行っても結果が陰性になってしまう期間があります。これを医学的に「ウィンドウ期(Window Period)」と呼びます。
検査を受ける最適なタイミング
当院を含む専門医療機関で使用されている最新の検査法(NAAT法)に基づくと、推奨される検査時期は以下の通りです。
クラミジアの潜伏期間(症状が出るまでの期間)は通常1〜3週間ですが、現在の標準検査である核酸増幅法(NAAT)は、微量の菌の遺伝子を数百万倍に増幅して検出します。
そのため、自覚症状が出る前の段階や、菌量が少ない感染初期(感染から数日〜1週間程度)であっても、感染の有無を高感度に見つけ出すことが可能です。
注意点:
もし、不安な行為から数日以内に検査を受けて「陰性」だった場合は、ウィンドウ期の可能性を考慮し、念のため2週間以上経過してから再検査を受けることを強くお勧めします。
2. なぜ「早すぎる検査」はNGなのか(偽陰性のリスク)
不安だからといって、感染機会の翌日や2日後に検査を受けることは、医学的に推奨されません。 その最大の理由は、「偽陰性(ぎいんせい)」という誤った判定が出るリスクが極めて高いためです。
実際にはクラミジアに「感染している」にもかかわらず、検査結果が誤って「陰性(感染していない)」と出てしまう現象のことです。
なぜ偽陰性が起こるのか(検出限界の壁)
誤った「陰性」判定を受け取ると、患者様は「自分は感染していない、大丈夫だ」と誤認してしまいます。
その結果、治療を行わずに放置してしまい、気づかないうちに病状が進行(不妊化など)したり、パートナーとの性行為で感染を広げてしまったりする事態を招きます。
だからこそ、「適切な時期(2週間後)まで待つ」ことは、あなた自身と大切なパートナーを守るための重要な判断なのです。
【もし、フライング検査をしてしまったら】
すでに感染機会から数日以内で検査を受け「陰性」だった場合は、その結果を過信せず、リスク行為から2週間以上経ってから再度検査を受けることを強く推奨します。
3. 治療後の再検査:治癒確認は必要?不要?
「薬を飲み終わった翌日に、治ったか確認したい」
お気持ちは分かりますが、医学的には治療直後の検査は推奨されていません。
また、一般的な患者様(非妊娠時)において、症状が消えていれば「治癒確認のための検査(Test of Cure)」自体、原則として必須ではないとされています。
現在使用されている標準治療薬(アジスロマイシンやドキシサイクリン等)は、正しく服用すれば90%以上の極めて高い治癒率を誇ります。
そのため、CDC(米国疾病予防管理センター)や日本のガイドラインでも、妊娠していない方で、処方通りに薬を飲み切り、症状が消失している場合は、ルーチンでの確認検査は行わない方針となっています。
PCR法などの遺伝子検査(NAAT)は非常に高性能なため、抗菌薬によって破壊された「死んだ菌のDNA」まで検知してしまうことがあります。
治療完了から1〜2週間以内に検査を行うと、体内から菌は消えて治っているにもかかわらず、検査結果が「陽性」と出てしまう(偽陽性)リスクが高いため、適切な期間を空ける必要があります。
【例外】必ず「治癒確認検査」が必要なケース
ただし、以下の条件に当てはまる方は、治療終了から3週間以上あけて必ず再検査を受けてください。
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妊婦の方
母子感染を防ぐため、確実に治癒したことを証明する必要があります。ガイドラインで強く推奨されています。 -
薬を正しく飲めなかった方(アドヒアランス不良)
飲み忘れがあった、途中でやめてしまった、服用後に嘔吐してしまった等の場合は、治療失敗の可能性があるため確認が必要です。 -
症状が続いている方
治療後も痛みや分泌物が治まらない場合は、薬が効いていない(耐性菌の可能性など)か、他の病気の可能性があるため検査を行います。
※ご不安でどうしても確認検査を希望される場合でも、上記の「偽陽性」を防ぐため、治療終了から最低でも1週間(できれば2週間)は期間を空けてご来院ください。
4. 「3ヶ月後の再検査」が最も重要な理由
クラミジア治療において、最も注意すべきなのは「薬が効かないこと」ではなく、「治った後にまた感染すること(再感染)」です。 一度治っても免疫はつかないため、パートナーが未治療であったり、新しいパートナーができたりすれば、すぐに再感染してしまいます。
治療1〜2週後
原則不要
治療3ヶ月後
極めて重要
データで見る再感染のリスク
「自分は気をつけるから大丈夫」と思っていても、実際の再感染率は想像以上に高いことが各国の研究で示されています。
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約18%が再び陽性に
ニュージーランドの大規模調査では、治療後6ヶ月以内に再検査を受けた人の約18%が再び陽性となっていました。 -
2ヶ月後ですでに約9%が再感染
オランダの研究では、治療からわずか2ヶ月後の時点で、全体の8〜9%に再感染(または感染持続)が確認されています。
特に女性の場合、再感染を繰り返すと骨盤内炎症性疾患(PID)のリスクが飛躍的に高まり、将来の不妊に直結します。
ガイドラインが推奨する「3ヶ月後」の意味
日本性感染症学会や米国CDCのガイドラインでは、これらの再感染リスクを早期に発見するため、治療終了から約3ヶ月後の再検査(リテスト)を強く推奨しています。
これは、菌のライフサイクルやパートナーとの接触頻度などを考慮し、再感染が見つかりやすい時期として設定されています。
「3ヶ月も待つと忘れてしまう」という患者様も少なくありません。
近年のオランダの研究(RCT)では、3ヶ月後や6ヶ月後よりも、「8週間後(約2ヶ月後)」に再検査を案内したグループが最も受診率が高く、かつ再感染の見逃しもなかったと報告されています。
日本のガイドライン上の目安は「3ヶ月」ですが、ご予定が合わない場合や不安な場合は、治療から2ヶ月程度経過した時点で検査を受けていただいても構いません。「忘れないうちに検査を受けること」が何より重要です。
もし3ヶ月後のタイミングを逃してしまった場合でも、1年以内に一度は検査を受けるようにしましょう。
5. パートナー治療と再感染予防のポイント
再感染を防ぐための最後の砦は、「パートナーとの同時治療」と「治療期間中の過ごし方」です。 どんなにあなたが適切なタイミングで検査・治療を行っても、ここを疎かにすると感染の連鎖(ピンポン感染)は断ち切れません。
治療開始から「7日間」は性行為NG
薬を飲んだその日に治るわけではありません。
アジスロマイシン(1回のみ服用の薬)を使用した場合でも、薬の成分が体に行き渡り、菌を完全に排除するまでには約7日間かかります。
この期間中に性行為(コンドームなしはもちろん、オーラルセックス含む)を行うと、体内に残っている菌をパートナーに移したり、逆にパートナーから貰い直したりする危険があります。
米国CDCガイドラインでも、「治療薬を服用してから7日間は性交渉を控えること」が強く推奨されています。
パートナーへの受診勧奨(通知)
クラミジアは、男性の約50%、女性の約80%が無症状といわれています。
パートナーに症状がなくても、あなたが陽性であれば、相手も感染している可能性は非常に高いです。
お互いが同時に検査・治療を受けない限り、治ったそばから移し合う「ピンポン感染」は終わりません。必ずパートナーの方にも検査を受けてもらいましょう。
6. 参考文献・エビデンス
本記事は、以下のガイドラインおよび研究論文に基づいて作成されています。- 日本性感染症学会. 性感染症診断・治療ガイドライン 2020.
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Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021.
(ウィンドウ期、再検査時期、治療後の待機期間に関する推奨) -
Dukers-Muijrers NHTM, et al. Effectiveness of expedited partner therapy versus standard partner notification for Chlamydia trachomatis infection.
(パートナー治療と再感染リスクに関する研究) -
Heijne JCM, et al. Re-testing for Chlamydia trachomatis: a randomized controlled trial.
(オランダでのRCT:治療8週後の再検査受診率に関する報告) -
Rose SB, et al. Chlamydia trachomatis re-testing and re-infection rates in New Zealand.
(治療後6ヶ月以内の高い再感染率に関するコホート研究)
金谷 正樹Masaki Kanaya
モイストクリニック 院長
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックにて性感染症を中心に診療を行う。
日本性感染症学会の会員として活動しており、得意分野である細菌学と免疫学の知識を活かして、患者さまご本人とパートナーさまが幸せになれるような医療の実践を目指している。
