喉・口の「しこり」や「水ぶくれ」は性病?梅毒・ヘルペスの原因と対処法

こんな症状に心当たりはありませんか?
  • 口の中や舌に、硬いしこりがある
  • 唇や喉に水ぶくれができ、痛みが強い
  • なかなか治らない口内炎がある
  • オーラルセックスの心当たりがある
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喉・口の違和感、まさか性病?

「性病=性器の病気」というイメージがありますが、実は口(唇・舌)や喉(咽頭)にも感染します。
特に20〜40代の方で、オーラルセックスの経験がある場合、なかなか治らない口内炎や喉の違和感は、梅毒やヘルペスのサインかもしれません。

なぜ口や喉にうつる?感染する仕組み

原因となるのは、主にオーラルセックス(口での性行為)ディープキスです。
口と喉の粘膜はつながっているため、菌やウイルスが侵入すると、唇・舌・喉の奥(扁桃)のどこにでも感染する可能性があります。

🦠 梅毒の場合
接触した場所に感染
相手の性器や口にある「梅毒の病変(しこり等)」に触れた部分(唇や舌など)から菌が侵入し、そこに症状が出ます。
💧 ヘルペスの場合
唾液・粘液で感染
ウイルスを含んだ相手の唾液や愛液が口に入ることで感染します。唇だけでなく、喉の奥や歯茎に広がることもあります。
⚠ ここに注意してください
  • 「挿入していないから大丈夫」は間違いです。キスやオーラルセックスだけでも感染します。
  • 相手が無症状でも、ウイルスや菌を排出している(無症候性排菌)ケースがあります。
  • 喉の奥だけでなく、「舌のしこり」や「唇のただれ」も性病検査の対象です。

喉・口にできる梅毒の特徴と進行(病期分類)

梅毒は「偽装の達人」と呼ばれるほど症状が多様で、時期によって現れ方が変化します。
喉や口に症状が出るのは主に第1期第2期です。痛みが少ないケースが多く、見逃されやすいため注意が必要です。

第1期:感染部位のしこり 感染から約3週間〜3ヶ月
菌が侵入した場所(唇、舌、扁桃など)に、軟骨のような硬さのしこり(初期硬結)ができ、やがてその中心が潰れて潰瘍(硬性下疳:こうせいげかん)になります。
  • 特徴:多くの場合、痛みやかゆみがありません。
  • 経過:治療しなくても数週間で自然に消えてしまいますが、治ったわけではなく菌は体内で増殖を続けます。
  • リンパ節:首のリンパ節がゴリゴリと硬く腫れることがありますが、これも痛みを伴わないことが多いです。
第2期:全身へのバラ撒き 感染から約3ヶ月〜3年
菌が血液に乗って全身に広がります。
喉の奥や舌、唇の粘膜が赤くただれたり、白っぽく爛れたりします。これを「粘膜斑(ねんまくはん)」と呼びます。
  • 見た目:牛乳をこぼしたような白い斑点、または赤く腫れ上がった状態。
  • 感染力:この時期の口内病変には大量の菌が含まれており、最も感染力が強い状態です。キス等で容易にうつります。
  • 全身症状:手のひらや足の裏、体に赤い発疹(梅毒性バラ疹)が出ることがあります。
潜伏梅毒(無症候) 期間は様々

症状が全く出ない、あるいは症状が消えて潜伏している期間です。
見た目には分かりませんが、血液検査をすると陽性反応が出ます。現代では、この「無症状のまま感染に気づかない」ケースが非常に増えています。

👨‍⚕️ 医師の視点:他の病気との鑑別

喉の梅毒は、以下の病気と間違われやすい特徴があります。

  • 口内炎・舌炎:梅毒は痛みが少ないのが鑑別点ですが、痛む場合もあり見た目だけでは区別困難です。
  • 扁桃炎・咽頭炎:赤みや腫れが似ています。
  • 口腔がん・咽頭がん:硬いしこりができる点が似ていますが、梅毒は数週間で形が変わる(消える)点が異なります。

「治らない口内炎」「痛みのない喉のしこり」が2週間以上続く場合は、必ず検査を受けてください。

口・喉にできるヘルペスの特徴(単純ヘルペスウイルス)

ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス(HSV)」による感染症です。
従来、口はHSV-1型、性器はHSV-2型と言われてきましたが、オーラルセックスの一般化により、喉からHSV-2型(性器ヘルペスと同じウイルス)が検出されるケースが増加しています。

「初めての感染」と「再発」で症状が全く違います

ヘルペスの最大の特徴は、ウイルスが神経に棲みつき、体調によって何度も出てくることです。
しかし、症状の重さは初回と2回目以降で大きく異なります。

初感染(初めてかかった時) 重症
ヘルペス性歯肉口内炎・咽頭炎

免疫がない状態で感染するため、ウイルスが暴れて重い症状が出やすいです。

  • 38度以上の高熱が出ることが多い
  • 喉の奥や歯茎に多数の小さな水ぶくれができる
  • 激しい痛みで水も飲めなくなる(嚥下痛)
  • 首のリンパ節が腫れて痛む
再発(2回目以降) 軽症
口唇ヘルペス・軽度の咽頭炎

体内に抗体があるため、症状は限定的です。

  • 熱は出ないことが多い
  • 唇や口の端に数個の水ぶくれができる
  • 「ピリピリ・チクチク」する違和感(前駆症状)から始まる
  • 1週間程度でかさぶたになり治癒する

特徴的な症状の見た目(水疱から潰瘍へ)

1
集簇(しゅうぞく)する小水疱
赤く腫れた粘膜の上に、2〜3ミリの小さな水ぶくれが集まって(ブドウの房のように)発生します。これがヘルペスの最も典型的なサインです。
2
びらん・潰瘍(ただれ)
口の中は湿っているため、水ぶくれはすぐに破れます。破れると皮がむけたような赤い「ただれ(びらん)」になり、黄色っぽい「偽膜(ぎまく)」と呼ばれる膿のような苔(こけ)に覆われることもあります。
👨‍⚕️ 医師の視点:見分けるポイント

ヘルペスを疑う最大のポイントは「痛みの強さ」「境界の鮮明さ」です。

  • 梅毒との違い:梅毒は「痛くない」ことが多いですが、ヘルペスは「焼けるような痛み」を伴います。
  • アフタ性口内炎との違い:一般的な口内炎は1つポツンとできますが、ヘルペスは「小さな粒が集まって」できます。
  • 扁桃炎との違い:細菌性の扁桃炎でも白い膿がつきますが、ヘルペスは「粘膜がただれている(えぐれている)」所見が強いのが特徴です。

※痛みが強く水分摂取が困難な場合は、脱水症状を防ぐために早急な点滴や投薬が必要です。我慢せず受診してください。

写真での自己診断はNG!その3つの理由

画像検索が「誤診」の元です

「喉 性病 画像」で検索し、スマホの画面と鏡を交互に見比べていませんか?
実は、喉の性病診断において「見た目」は最も当てにならない情報の一つです。
医師であっても、視診だけで「これは梅毒だ」と断定することはまずありません。

理由1:性病とそっくりな「普通の病気」が多すぎる

喉の粘膜は、風邪や体調不良で変化しやすいため、性病と区別がつかないケースが多々あります。

白いできもの・膿 区別困難
梅毒・ヘルペス vs 扁桃炎・膿栓(臭い玉)
「喉に白いものがついている」=性病とは限りません。一般的な扁桃炎でも白苔(はくたい)と呼ばれる白い膿がべっとりと付着します。
潰瘍・ただれ 区別困難
梅毒(第1期) vs アフタ性口内炎
梅毒の潰瘍は「痛くない」ことが多いですが、見た目は普通の口内炎と非常に似ています。「ただの口内炎」と思って放置し、感染を広げてしまうのが最も多いパターンです。

理由2:「正常なデコボコ」を性病と勘違いする

人間の口の中には、元々「ぶつぶつ」した構造があります。
不安になって鏡を凝視しすぎるあまり、正常な組織を性病だと思い込んでしまう方が非常に多いです。

【よくある勘違い:有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)】
舌の奥(喉に近い部分)にある、V字型に並んだ大きめの突起です。
これは誰にでもある正常な味覚センサー(味蕾)ですが、鏡で舌を突き出して見た時に「奥に大きなイボがある!コンジローマだ!」とパニックになる方が後を絶ちません。
左右対称に並んでいるなら、まず正常な組織です。

理由3:そもそも「無症状」かもしれない

これが最大のリスクです。
喉の性病(特にクラミジア・淋菌・梅毒の一部)の多くは、見た目に何の変化もありません。
「喉がきれいだから大丈夫」という自己判断は、性病においては通用しないのです。

医師からのアドバイス

私たちは毎日多くの患者様の喉を診ていますが、それでも「見た目」だけで診断を確定させることはしません。
必ず検査キットや血液検査の結果と照らし合わせて診断します。

もし、あなたが今、ネットの画像と自分の喉を見比べて悩んでいるなら、その時間はもったいないと言えます。
「見た目」ではなく「行為の心当たり」で検査を決めてください。それが最も確実で、安心への近道です。

梅毒・ヘルペスは治る? 専門的治療と「即日対応」

「一生治らないのでは?」と不安になる方もいますが、現代医学において適切な薬剤を使用すれば、恐れる必要はありません。
当院ではガイドラインに基づき、以下の治療を行います。

梅毒の治療 完治します

梅毒トレポネーマ(細菌)に対し、ペニシリン系抗菌薬を使用して菌を完全に死滅させます。
早期発見であれば、後遺症もなくきれいに治ります。

■ 注射療法(推奨)
ベンジルペニシリンベンザチン水和物
世界標準の治療薬です。早期梅毒であれば、お尻への筋肉注射1回のみで治療が完了します。飲み忘れのリスクがなく、最も推奨されます。
■ 内服療法
アモキシシリン等
注射が苦手な場合やアレルギーがある場合は、抗菌薬を2〜4週間服用し続けます。
※治癒の判定について(血清学的治癒)
治療後、血液検査の数値(RPR定量値)が治療前の半分〜1/4以下に低下したことをもって「治癒」と判定します。しこりが消えても自己判断で通院をやめないでください。
ヘルペスの治療 症状を抑制・鎮静化

抗ウイルス薬を用いて、ウイルスのDNA複製をブロックし、増殖をストップさせます。
「痛みを消す」「治りを早める」効果が非常に高いです。

■ 急性期治療(今痛い時)
バラシクロビル・アシクロビル等
飲み薬を5〜7日間服用します。発症から早ければ早いほど(48時間以内推奨)効果が高く、重症化を防げます。
■ 再発抑制療法(PITなど)
頻繁に再発する方には、あらかじめ薬を持っておき、予兆(ピリピリ感)を感じた瞬間に服用して発症を未然に防ぐ治療法も可能です。
※ウイルスの潜伏について
一度感染すると神経節にウイルスが残りますが、適切な治療でコントロールすれば、日常生活やパートナーとの関係に支障はありません。
痛みが強い場合の「即日治療」

検査結果を待たずに、その場で治療を開始します。

特にヘルペスや梅毒の疑いが強い場合、検査結果が出るまでの数日間、痛みや不安を抱えたまま過ごすのは患者様にとって不利益です。

当院では、専門医の視診により可能性が高いと診断した場合、検査を行った当日に治療薬(抗ウイルス薬や抗菌薬)を処方する「経験的治療(Empiric Therapy)」を積極的に行っています。
「今日から治し始める」ことで、辛い症状を最短で鎮めます。

診断のアプローチ:視診と検査の違い

性病の診断には、病気ごとの特性に合わせた「最適な診断手法(ゴールドスタンダード)」が存在します。
当院では、以下の医学的根拠に基づき診断を行います。

① ヘルペスの診断 専門医による視診
なぜ「検査」ではなく「視診」なのか?

ヘルペス(単純ヘルペスウイルス感染症)は、「集簇性小水疱(しゅうぞくせいしょうすいほう)」と呼ばれる特異的な皮膚所見が現れるため、熟練した医師であれば見た目(視診)と問診で高い精度の診断が可能です。
また、ウイルスの検査結果を待つ数日間、激痛に耐えるよりも、「臨床診断(症状から判断)」を行い、その場ですぐに抗ウイルス薬を開始する方が、患者様の予後(治り)にとって有益であるという医学的判断に基づいています。

② 梅毒の診断 血液検査(血清反応)
なぜ「喉」なのに「血液」なのか?

梅毒トレポネーマは全身に播種(はしゅ)するため、喉の病変だけでなく、全身の状態を把握する必要があります。
当院では、2種類の抗体を測定することで正確に診断します。

  • RPR法:現在の「病勢(菌の活動性)」を反映します。治療効果の判定にも使われます。
  • TP抗体:梅毒への「感染歴」を特異的に検出します。

視診では口内炎と区別がつかないケースでも、血液検査(STS)を行うことで確定診断が可能です。

パートナーへの感染・日常生活の不安について

最も注意すべきは「ピンポン感染」

ご自身が治療をして治っても、パートナーが感染したままだと、性行為のたびに菌をうつし合ってしまいます。これを「ピンポン感染」と呼びます。

治療中は性行為NG
🏓
パートナーも検査が必要です

梅毒やヘルペスと診断された場合、パートナーの方も(たとえ無症状でも)感染している可能性が非常に高いです。
医師から「完治(またはウイルス抑制)」の診断が出るまでは、オーラルセックスを含む一切の性行為を控えてください。コンドームを使用しても、覆われていない部分から感染するリスクがあります。

日常生活でうつる可能性は?

「家族と同じお風呂に入っていいの?」「洗濯物は?」といった不安をよく伺いますが、基本的な知識があれば過度に恐れる必要はありません。

お風呂・湯船 ほぼ心配なし
梅毒菌やヘルペスウイルスは、熱や大量の水(お湯)の中ではすぐに感染力を失います。湯船や椅子を介して家族に感染する可能性は極めて低いです。
洗濯物・トイレ ほぼ心配なし
洗濯機で一緒に洗っても問題ありません。洋式トイレの便座からうつることも基本的にはありません。通常通りの生活で大丈夫です。
キス・食器の共用 注意が必要
ここに注意してください。
特にヘルペスの水ぶくれが出ている時期や、梅毒の病変がある時期は、患部に強い感染力があります。
唾液がついたコップの回し飲みや、タオル、スプーンの共用は避けてください。もちろんキスは厳禁です。

喉のしこり・水ぶくれに関するQ&A

Q. 口内炎と梅毒の見分け方はありますか?
非常に難しいですが、一般的な口内炎は「しみるような鋭い痛み」があり、1〜2週間で治ります。
一方、梅毒のしこりや潰瘍は「痛みが少ない(または全くない)」ことが多く、数週間かけてゆっくり変化します。
ただし、痛む梅毒もあるため、2週間以上治らない場合は必ず検査を受けてください。
Q. キスだけで喉にうつる確率は?
確率は状況によりますが、相手の口の中に活動期の病変(梅毒のしこりやヘルペスの水ぶくれ)がある場合、感染率は非常に高いです。
特にディープキスは粘膜接触の時間が長いため、オーラルセックスと同等のリスクがあると考えてください。
Q. 自然治癒しますか?放置してもいいですか?
絶対に放置はいけません。
ヘルペスは自然に症状が引くこともありますが、神経にウイルスが残ります。梅毒は症状が消えても、体内で菌が増殖し続け、数年後に心臓や神経を破壊します。
どちらも医療機関での適切な治療が必要です。
Q. 何科を受診すればいいですか?
耳鼻咽喉科でも診察可能ですが、性行為に関連する相談や、性器も含めた全身の検査を行いたい場合は「性感染症専門クリニック(性病科)」がおすすめです。
当院ではプライバシーに配慮し、喉だけでなく全身のチェックをまとめて行えます。

まとめ:一人で悩まずご相談ください

喉の異変は「治る病気」のサインかもしれません

鏡で喉のしこりや水ぶくれを見るたびに、「怖い病気だったらどうしよう」「誰にも相談できない」と一人で抱え込んでいませんか?

梅毒もヘルペスも、かつては恐ろしい病気と言われましたが、現代医学では薬で適切に治療・コントロールできる病気です。
最も怖いのは、恥ずかしがって放置し、重症化させてしまうことです。

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金谷正樹 院長
この記事の監修

モイストクリニック院長 金谷 正樹

国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療を行っている。日本性感染症学会の会員として活動しており、得意分野である細菌学と免疫学の知識を活かして、患者さまご本人とパートナーさまが幸せになれるような医療を目指している。