性交痛(性交時の痛み)の原因・種類と治療法|医師監修の網羅的解説

医学的定義:性交痛(Dyspareunia)とは

性交痛とは、性交渉の際(挿入時や行為中、直後)に性器や骨盤内に生じる痛みの総称です。
多くの女性が密かに悩んでいるデリケートな問題ですが、決して珍しい症状ではありません。
原因は「潤い不足」などの生理的なものから、「性感染症(STI)」や「子宮内膜症」などの治療が必要な疾患まで多岐にわたります。

痛みを我慢して性行為を続けることは、症状を悪化させるだけでなく、パートナーとの関係性やご自身のメンタルヘルスにも影響を及ぼします。
本記事では、女性に多い性交痛の原因を中心に、考えられる疾患ごとの特徴や検査・治療法について、医学的知見に基づき解説します。

1. 性交痛の2つのタイプと主な原因

性交痛の原因を特定する上で最も重要な手がかりとなるのが、「どこが痛むか(部位)」です。
医学的に性交痛は、痛む場所によって大きく以下の2つに分類されます。ご自身の痛みがどちらに当てはまるかを確認することで、疑われる病気を絞り込むことができます。

🚪 1. 表在性(浅い)性交痛

「入り口が痛い」「挿入しようとするとしみる」
腟の入り口付近や外陰部(皮膚・粘膜)で感じる痛みです。

主な原因:粘膜の炎症・乾燥
  • 腟炎・性感染症(カンジダ、ヘルペス等)
  • 潤滑不足(萎縮性腟炎、GSM)
  • 皮膚トラブル(アレルギー、外傷)
  • 腟痙攣(心理的要因)
🩺 2. 深部性交痛

「奥が痛い」「突かれるとズキッとお腹に響く」
腟の最深部や、骨盤の内部で感じる衝突痛(Collision Pain)です。

主な原因:骨盤内の臓器トラブル
  • 骨盤内炎症(クラミジア、淋菌の進行)
  • 婦人科疾患(子宮内膜症、子宮筋腫)
  • 癒着(過去の手術や炎症の影響)

このように、痛みの場所によって原因は異なりますが、特に当院(性感染症内科)の領域である「感染症」は、浅い痛み・深い痛みの両方の原因となり得ます。
次のセクションでは、治療が必要な「感染症による性交痛」について詳しく解説します。

2. 感染症(性感染症)による痛みと特徴

細菌やウイルス、真菌(カビ)などの病原体が腟や外陰部に感染すると、粘膜が炎症を起こして充血・肥厚します。
これにより知覚過敏な状態となり、性交時の物理的な摩擦や圧迫に対して強い痛みを感じるようになります。
放置すると骨盤内炎症性疾患(PID)へと進展し、不妊の原因となることもあるため早期発見が重要です。

腟カンジダ症 Candida albicans 表在性(入り口)
病態・メカニズム

常在菌の一種であるカンジダ真菌が異常増殖し、腟粘膜および外陰部に強い炎症を引き起こします。性感染症としての側面よりも、体調変化による自己感染の側面が強い疾患です。
粘膜がただれて敏感になるため、挿入時の摩擦でヒリヒリとした鋭い痛み(灼熱感)が生じます。

特徴的な随伴症状: 酒粕(カッテージチーズ)状の白いおりもの、強いかゆみ、外陰部の発赤
性器クラミジア感染症 Chlamydia trachomatis 深部(奥の痛み)
病態・メカニズム

日本で最も感染者数が多いSTIです。初期は子宮頸管炎を起こしますが、自覚症状に乏しいのが特徴です。
進行すると炎症が子宮内膜、卵管、腹腔内へと波及し、骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こします。この状態になると、性交時に子宮が動くことで癒着部位が引っ張られ、下腹部の奥深くにズキッとした痛み(衝突痛)が生じます。

特徴的な随伴症状: おりものの増加(水っぽい〜粘液性)、下腹部痛、不正出血
※無症状のケースも多いため注意が必要です。
淋菌感染症(淋病) Neisseria gonorrhoeae 深部 〜 全体
病態・メカニズム

クラミジアと同様に子宮頸管炎から上行感染(お腹の中へ広がる感染)を起こしますが、クラミジアよりも炎症反応が急激で強い傾向があります。
子宮や卵管に強い炎症がある状態で性交渉を行うと、激しい深部痛や出血を伴うことがあります。

特徴的な随伴症状: 黄色く膿っぽいおりもの、悪臭、発熱、下腹部激痛
腟トリコモナス症 Trichomonas vaginalis 表在性(入り口)
病態・メカニズム

原虫(寄生虫の一種)の感染により、腟全体に強い炎症と発赤(イチゴ状腟壁)を引き起こします。
炎症が強いため、性交時の摩擦による痛みだけでなく、排尿時にしみるような痛みを感じることもあります。

特徴的な随伴症状: 泡状の悪臭がある黄緑色のおりもの、強いかゆみ、腟の刺激感
性器ヘルペス Herpes Simplex Virus 皮膚・粘膜の激痛
病態・メカニズム

単純ヘルペスウイルスの感染により、外陰部に多数の小水疱(水ぶくれ)や潰瘍(ただれ)を形成します。
潰瘍部分は神経が過敏になっているため、触れるだけでも激痛が走り、性交渉は困難となります。初感染時は特に症状が重く、歩行や排尿もつらくなることがあります。

特徴的な随伴症状: 水ぶくれ・潰瘍、ピリピリ感、発熱、鼠径リンパ節の腫れ

👩‍⚕️ 専門医の視点:おりものの変化を見逃さないで

性感染症による性交痛の最大の特徴は、痛みだけでなく「おりもの(帯下)の異常」を伴うことが多い点です。
「いつもと色が違う」「においが気になる」と感じた上で性交痛がある場合、ほぼ間違いなく何らかの感染症や腟炎が存在します。
この段階で婦人科や性感染症内科を受診し、適切な抗生剤治療を行えば、痛みは数日で劇的に改善します。

3. 感染症以外の原因(機能性・器質性疾患)

細菌やウイルスがいなくても、ホルモンバランスの変化や、子宮・卵巣の器質的疾患(臓器そのものの病気)、あるいは心理・身体機能の問題によって性交痛が生じることがあります。

💧 潤滑不足・ホルモンバランス
エストロゲン欠乏・GSM

【病態】
更年期や産後・授乳期は、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に低下します。これにより膣壁が薄く乾燥し、弾力性を失う「萎縮性膣炎」「閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)」という状態になります。
【痛みの特徴】
潤いが足りず防御機能が低下しているため、挿入時の摩擦で擦過傷(すり傷)ができやすく、全体的にヒリヒリとした痛みを感じます。

🧠 心理的要因・膣痙攣
不随意筋収縮・機能性障害

【病態】
過去の痛みやトラウマ、性交への恐怖心・緊張により、無意識に骨盤底筋群や膣の入り口の筋肉が過剰に収縮してしまう状態です(膣痙攣・Vaginismus)。
【痛みの特徴】
「入らない」「壁にぶつかる」ような感覚があり、無理に挿入しようとすると強い痛みが生じます。これは「気持ちの問題」ではなく、身体的な筋肉の反射反応です。

🧼 アレルギー・接触性皮膚炎
化学的刺激・免疫反応

【病態】
コンドームのラテックス(ゴム)アレルギーや、精液アレルギー、または過度な洗浄(膣洗浄剤や石鹸)による化学的刺激で、外陰部が皮膚炎を起こしている状態です。
【痛みの特徴】
行為中だけでなく、行為後もヒリヒリ感や赤み、かゆみが持続することが特徴です。

🩹 処女膜強靭・癒着
解剖学的要因

【病態】
処女膜が厚く強靭であったり、過去の手術や炎症による癒着が膣口に残っている場合、物理的な伸展性が悪く痛みが生じます。
【痛みの特徴】
特定の箇所が突っ張るような鋭い痛み(裂傷痛)が生じます。

⚠️ 婦人科疾患による深部性交痛

性感染症以外で「奥が痛い(深部痛)」を引き起こす代表的な原因が、子宮や卵巣の病気です。これらは不妊の原因にもなるため、婦人科での精査が必要です。

  • ● 子宮内膜症(Endometriosis)
    子宮内膜組織がダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)などに癒着していると、性交時のピストン運動で癒着部分が牽引され、突き上げられるような激痛が生じます。生理痛が重い方に多く見られます。
  • ● 子宮筋腫・卵巣嚢腫
    腫瘍によって臓器が肥大化し、性交時に圧迫されることで鈍痛や不快感を生じることがあります。
💡 診断のポイント
これらの原因は、おりものの検査だけでは判別できません。
当院の感染症検査で「陰性」だった場合、これらの婦人科疾患や機能的問題が隠れている可能性が高くなります。
まずは感染症(STI)を除外し、原因を絞り込んでいくアプローチが、最短の解決策となります。

4. 男性の性交痛について

Male Dyspareunia

性交痛は女性だけの問題ではありません。男性の場合、主に「包皮の物理的な問題」「亀頭の炎症」、そして「射精時の痛み」の3つに大別されます。
特に炎症がある場合、パートナーへ感染症をうつしてしまうリスクが高いため注意が必要です。

🍄 亀頭包皮炎・皮膚トラブル
Balanoposthitis / Candida

【病態】
カンジダ(真菌)や細菌の感染により、亀頭や包皮が赤く腫れ上がり、ただれている状態です。
【症状】
普段からかゆみがありますが、勃起時や挿入時の摩擦によって強い痛みや灼熱感が生じます。糖尿病の男性に多く見られます。

📏 包茎・包皮小帯短縮症
Phimosis / Frenulum Breve

【病態】
包皮口が狭い(カントン包茎)や、裏筋(小帯)が生まれつき短い状態です。
【症状】
勃起時に皮膚が無理に引っ張られることで裂けるような痛み(裂傷)が生じたり、出血することがあります。無理な挿入は嵌頓(締め付け)のリスクがあります。

射精痛・前立腺炎
Prostatitis / Ejaculatory Pain

【病態】
クラミジアや淋菌、大腸菌などが尿道から逆流し、前立腺や精巣上体(副睾丸)に炎症を起こしている状態です。
【症状】
行為そのものではなく、「射精の瞬間」に尿道の奥や会陰部(肛門の前)に鈍い痛みや不快感を感じるのが特徴です。

⚠️
男性に痛みがある=パートナーへの感染リスク大

特に「亀頭包皮炎(カンジダ)」や「性器ヘルペス」による痛みがある状態で性交渉を行うと、パートナーへ感染させる(ピンポン感染)可能性が極めて高くなります。
男性側に自覚症状がある場合は、必ずカップルで検査・治療を受けることが推奨されます。

5. 性交痛の診断プロセスと治療法

性交痛の治療において最も重要なのは、「器質的要因(病気)」と「機能的要因(心身の働き)」の鑑別です。
医療機関では、以下のプロセスで原因を特定し、標準治療ガイドラインに基づいた治療を行います。

■ 診断・検査の流れ

1

問診(Medical Interview)

痛みの部位(入り口か奥か)、時期(いつからか)、随伴症状(おりもの・かゆみ)を確認します。パートナーの症状の有無も重要な診断材料となります。

2

視診・内診(Pelvic Examination)

外陰部の発赤、水疱、潰瘍の有無を確認します。クスコ式腟鏡を用いて腟内の炎症状態やおりものの性状を観察し、子宮頸部の炎症や圧痛(押した時の痛み)をチェックします。

3

病原体検査(Laboratory Tests)

・顕微鏡検査:おりものを採取し、カンジダ菌糸やトリコモナス原虫の有無を即座に確認します。
・PCR法 / NAAT法:クラミジアや淋菌などの遺伝子を増幅して検出する精密検査です。わずかな菌量でも高感度に検出可能です。

■ 原因別の標準治療薬(Standard Treatment)

原因が特定された場合、日本性感染症学会等のガイドラインに基づき、以下の治療薬を用います。

原因疾患 主な治療法・薬剤
カンジダ症 抗真菌薬(Antifungals)
腟錠(イソコナゾール等)の挿入やクリーム塗布。難治性の場合は内服薬を使用。
クラミジア マクロライド系 / キノロン系抗菌薬
アジスロマイシン(1回服用)やドキシサイクリン(7日間服用)の内服。
淋菌感染症 セフェム系抗菌薬
セフトリアキソン等の点滴または筋肉注射(単回投与)。耐性菌が多いため内服は推奨されません。
性器ヘルペス 抗ヘルペスウイルス薬
アシクロビル、バラシクロビル等の内服。発症初期(48時間以内)の投与が特に有効です。
萎縮性腟炎 ホルモン補充・潤滑剤
エストロゲン腟錠の投与や、性交時の潤滑ゼリー使用による対症療法。
⚠️ 当院の診療範囲について

モイストクリニックは「性感染症内科」です。
性交痛の原因特定において、得意とする分野と対応できない分野がございます。

◎ 当院で対応できること
  • 感染症の診断・治療
    (クラミジア・淋菌・カンジダ・ヘルペス・マイコプラズマ等)
  • 細菌・ウイルス検査
    (PCR法検査、培養検査、顕微鏡検査)
  • 薬物療法
    (抗生剤・抗ウイルス薬・鎮痛剤の処方)
  • パートナーの検査・治療
△ 専門外(婦人科へ紹介)
  • 詳細な画像診断
    (経腟エコー、MRIなどによる内膜症・筋腫の精密検査)
  • 外科的手術
    (子宮内膜症や卵巣嚢腫の手術)
  • 物理療法・リハビリ
    (腟痙攣に対するダイレーター治療など)
  • がん検診・妊娠チェック

※当院の検査で「感染症陰性」であり、婦人科疾患が強く疑われる場合は、適切な医療機関(婦人科)をご案内するケースがございます。

性交痛に関するよくある質問(FAQ)

Q 性交痛を放置するとどうなりますか?自然に治りますか?
A. 原因によっては不妊症につながるため、放置は危険です。

潤い不足のような一過性のものは自然に改善することもありますが、クラミジアや淋菌などの「感染症」は自然治癒しません。
放置すると細菌が子宮や卵管の奥まで入り込み、卵管閉塞(卵管が詰まる)や癒着を引き起こし、将来的な不妊症や子宮外妊娠の原因となる可能性があります。
Q 潤滑ゼリーを使っても痛みが消えません。なぜですか?
A. 乾燥ではなく「炎症」が起きている可能性が高いです。

潤滑ゼリーは「摩擦」を減らすものですが、感染症によって粘膜自体がただれて炎症を起こしている場合、摩擦を減らしても「触れる痛み(接触痛)」や「しみる痛み」は消えません。
ゼリーで改善しない場合は、速やかに医療機関での検査をおすすめします。
Q 痛み止め(ロキソニン等)を飲んで性行為をしてもいいですか?
A. おすすめしません。根本的な解決にならず、症状を悪化させる恐れがあります。

鎮痛剤で痛みを感じなくさせることは可能ですが、その状態で性行為を行うと、炎症部位にさらなるダメージを与えたり、パートナーへ感染を広げたりするリスクがあります。
痛みは体からの「異常のサイン」ですので、薬で誤魔化さずに原因を治療してください。
Q 不妊治療中ですが、性交痛の検査は受けられますか?
A. はい、可能です。むしろ推奨されます。

性交痛の原因となるクラミジアや子宮内膜症は、不妊の直接的な原因にもなり得ます。不妊治療のクリニックでも検査を行いますが、性感染症に特化した詳細な検査を希望される場合は当院でも対応可能です。検査結果は書面でお渡しできますので、主治医にご提示いただくことも可能です。

6. まとめ:痛みを我慢せず専門医へ

性交痛は「治療できる症状」です

「恥ずかしいから」「我慢すればいい」と放置することで、感染症が骨盤内に広がり(PID)、将来的な不妊症や慢性疼痛の原因となるリスクがあります。
また、パートナーへの感染拡大を防ぐためにも、早期の診断と治療が不可欠です。

モイストクリニックでは、プライバシーに配慮した個室診療で、スピーディーな検査・治療を行っています。
違和感を感じたら、まずは一度ご相談ください。

参考文献・ガイドライン
  • ・日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン2020」
  • ・日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023」
  • ・厚生労働省「性感染症報告数(2023年)」
  • ・MSDマニュアル プロフェッショナル版「性交痛(Dyspareunia)」