- その場で結果がわかる
(検査から2時間以内) - すぐに治療を開始できる
(陽性ならその場で薬を処方) - 不安な時間を過ごさなくて済む
- パートナーへの感染拡大を即座に防げる
- 精度がやや劣る
(精密検査に比べ、見逃しリスクがある) - 偽陰性の可能性がある
(本当は感染しているのに陰性と出る) - 喉(のど)の検査には適さない場合が多い
- 感染直後(ウィンドウ期)は検出できない
「今日中に白黒はっきりさせたい」「パートナーにすぐ伝えないといけない」
性感染症の検査において、スピードは非常に重要な要素です。
クラミジアの「即日検査(迅速検査)」は、受診したその日のうちに結果がわかり、陽性であればすぐに治療薬を持ち帰ることができる非常に便利な検査です。 しかし一方で、数日かけて行う精密検査(NAAT法)に比べると、どうしても精度が劣るという側面があります。
このページでは、即日検査の仕組みやメリットだけでなく、知っておくべき「精度の限界」と、それを補うための「賢い使い分け方」について、最新の医療データに基づき解説します。
1. 即日検査とは:通常検査(精密検査)との違い
クラミジア検査には、大きく分けてその場で結果が出る「即日検査(抗原定性検査)」と、結果判明に数日かかる「通常検査(核酸増幅法:NAAT)」の2種類があります。
この2つは単に時間の違いだけでなく、検査の「仕組み」と、それに伴う「正確さ(感度)」に決定的な差があります。
メーカー公称値は90%以上の場合もありますが、それは「菌量が多い検体」でのデータです。
無症状の方や感染初期で菌量が少ない場合、実際の感度は上記のように低下し、見逃し(偽陰性)のリスクが高まります。
菌量が極めて少ない状態(無症状や、のどへの感染)であっても、ほぼ確実に見つけ出すことができます。
2. メリット:早期発見・早期治療がもたらす安心
即日検査の最大の価値は、検査を受けた「その瞬間」に次のアクション(治療)を決定できる点にあります。 精度に限界があるとはいえ、迅速な判断が可能になることで、患者様ご自身だけでなくパートナーや社会全体にとっても大きなメリットがあります。
陽性であれば、その場ですぐに抗菌薬を処方できます。 通常検査のように数日間結果を待つ必要がないため、症状がある場合はすぐに苦痛から解放される一歩を踏み出せます。
結果待ちの数日間に性行為をしてしまい、パートナーにうつしてしまうリスク(二次感染)を断ち切れます。 「今日わかって、今日治す」ことは、大切な人を守ることに直結します。
「感染しているかもしれない」という不安を抱えたまま数日間過ごすのは大きなストレスです。 白黒はっきりさせることで、早期に安心を得たり、覚悟を決めて治療に向き合ったりすることができます。
忙しくて「検査結果を聞きに再来院できない」という方は少なくありません。 即日検査なら1回の来院で完結するため、治療の機会を逃して感染を放置してしまうリスクを防げます。
即日検査で「陰性」を確認できれば、不必要な抗菌薬の服用を避けることができます。これは「抗菌薬適正使用(Antibiotic Stewardship)」という観点からも非常に重要です。
3. デメリットと限界:なぜ「見逃し」が起きるのか
即日検査(抗原検査)における最大の問題点は、「実際には感染しているのに、検査結果が陰性(マイナス)と出てしまうこと」です。
これを医学用語で「偽陰性」と呼びます。即日検査で「陰性」と言われて安心していたら、実は感染していてパートナーにうつしてしまった、という事例は珍しくありません。
なぜ見逃してしまうのか?(感度の壁)
原因は、検査の「感度(感染者を見つけ出す能力)」の低さにあります。 即日検査キットが反応するためには、検体の中に一定量以上の菌(抗原)が含まれている必要があります。 しかし、クラミジア感染者の多く(特に無症状の方や女性)は菌量が少なく、キットの検出限界を下回ってしまうことがあります。
※カタログスペックとの違いについて:
製品の仕様上は「感度90%以上」と記載されているキットであっても、実際の臨床現場(特に感染初期や無症状で菌量が少ないケース)では、感度が上記のように低下する傾向があります。
「陰性」と出ても、症状がある場合やリスクが高い場合は、必ず後日NAAT法(精密検査)での確認を推奨します。
なぜ「90%以上」のキットでも見逃しが起きるのか?
多くの即日検査キットは、性能試験において「感度90%以上」という高い数値を記録しています。しかし、これは実験室で十分な量の菌を含んだ検体を使った場合のデータです。
実際の臨床現場では、特に「無症状の患者様」や「排尿痛があっても膿が出ていない患者様」の場合、検体に含まれる菌の量が非常に少ないことがよくあります。
即日検査(抗原法)は、菌を増やすことなくそのまま検出するため、菌量がキットの「検出限界(Limit of Detection)」を下回っていると、本当は感染していても反応が出ず「陰性」となってしまいます。
対して、通常検査(NAAT法)は、ターゲットとなる遺伝子を化学反応で数百万倍に増幅させてから検出します。そのため、たった数個の菌しかいない状態でも、確実に陽性反応を出すことができるのです。
即日検査が適さないケース(その他の限界)
感度の問題以外にも、即日検査にはいくつかの構造的な限界があります。以下に該当する場合は、原則としてNAAT法(通常検査)が推奨されます。
- 感染直後(ウィンドウ期) 感染機会から数日以内では菌が増殖しておらず、即日検査ではまず検出できません。通常検査でも2週間空けるのが理想ですが、即日検査はそれ以上に検出が困難です。
- のど(咽頭)・お尻(直腸)の検査 多くの即日検査キットは、尿道や子宮頸管(性器)専用に作られています。咽頭や直腸の感染はNAAT法でなければ正確に検出できないことが多く、即日検査では対応していない(または精度が著しく落ちる)ケースがほとんどです。
- 女性の尿検査 男性は尿で検査可能ですが、女性の場合、尿検体での即日検査は感度がさらに低いことが知られています(膣ぬぐい液の方が正確です)。
※「陽性」が出た場合は信頼できます
即日検査の感度(見つける力)は低いですが、特異度(陽性を正しく判定する力)は90%以上と高い傾向にあります。
つまり、「陰性なら疑わしいが、陽性ならほぼ確実に感染している」と言えます。陽性と出た場合は、迷わず治療を開始すべきです。
4. 最新の研究動向:進化する「迅速NAAT検査」とは
これまでの常識では、「早い検査=精度が低い」「正確な検査=時間がかかる」というトレードオフ(両立できない関係)がありました。 しかし、近年の技術革新により、この常識を覆す新しい検査機器が登場しています。
それが、「迅速核酸増幅検査(POC-NAAT)」です。
大型の検査センターで行っていた「遺伝子増幅(PCR等)」を、クリニック内に設置できる小型機器の中で、短時間(約30〜90分)で行う技術です。
従来の抗原キットとは全く異なる仕組みで、「即日わかるのに、精度はPCR並み」という画期的な性能を持っています。
※Binx IOなどの迅速分子検査装置を用いた大規模研究の結果。従来の抗原検査(感度50-70%)と比較して飛躍的に向上しています。日本でも「GENECUBE(東洋紡)」などが実用化されています。
世界と日本の普及状況
米国CDCの最新ガイドライン(2021)では、すでにこの迅速NAATの使用が認められています。
「待たせない医療」と「正確な診断」を両立させ、その場で治療を完了させること(Test & Treat)が、感染拡大防止の新たなスタンダードになりつつあります。
技術的には導入可能ですが、機器が高額であることや保険適用の課題などから、まだ一般的なクリニックには普及していません。
多くの施設では依然として「即日=抗原検査」が主流ですが、将来的には日本でもこの高精度な迅速検査が標準化していくと考えられています。
5. 医師が勧める「即日検査」の上手な活用法
即日検査の「早さ」と通常検査の「正確さ」。どちらか一方だけを選ぶ必要はありません。 ご自身の状況に合わせて、最もリスクが少ない方法を選ぶことが大切です。当院では以下の基準での選択を推奨しています。
- 排尿痛や膿(うみ)などの自覚症状がある
- パートナーがクラミジア陽性と診断された
- 今日中に結果を知って安心したい
陽性ならその場で治療完了です。ただし、もし陰性だった場合、感度の問題で見逃している可能性があります。
「即日検査(陰性)+念のため通常検査(NAAT)も提出」というダブルチェックを行うのが最も安全で確実です。
- 特に症状はないが、定期検診として受けたい
- オーラルセックスやアナルセックスの機会があった
- リスク行為からまだ数日しか経っていない
菌量が少ない無症状の方や、喉・直腸の検査には、感度の低い即日検査(抗原キット)は不向きです。
結果まで数日かかりますが、最初から精度の高いNAAT検査(PCR法等)を受けることを強くお勧めします。
当院では、患者様のご希望とリスク状況をヒアリングし、最適な検査プラン(即日のみ、NAATのみ、あるいは併用)をご提案しています。 迷われた場合は、診察時に医師へご相談ください。
金谷 正樹 Masaki Kanaya
モイストクリニック 院長国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックにて性感染症を中心に診療を行う。 日本性感染症学会会員。細菌学と免疫学の専門知識を活かし、患者様とパートナー様の幸せを守る医療を実践している。
参考文献・エビデンス
- 日本性感染症学会. 性感染症診断・治療ガイドライン 2020.
- Van Der Pol B, et al. Performance of the binx health IO CT/NG Assay for Rapid Detection of Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae. JAMA Netw Open. 2020.
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021.
- 厚生労働省. 性感染症報告数(2004年〜2022年).
