監修:金谷正樹 医師|医学確認日:2026年9月27日
PrEP(プレップ)は、HIVに感染していない人が、感染する可能性のある行為の前から薬を使用して、HIV感染を予防する方法です。「曝露前予防」とも呼ばれ、飲み薬では毎日服用する方法が基本になります。
正しく使用した場合、性行為によるHIV感染リスクを約99%下げるとされています。ただし、飲み忘れや使用する薬、感染機会によって注意点が異なり、100%の予防を保証するものではありません。開始前のHIV検査と、服用中の定期的な診察・検査を組み合わせて行います。[1][2]
直近の行為に対する緊急予防は、PrEPではなくPEPを検討します。行為から72時間以内であれば、できるだけ早く医療機関へ相談してください。PEPの相談・受診方法

PrEPの仕組みと、PEPとの違い
HIVの増殖を抑えて感染を予防
PrEPは、HIV感染症の治療にも使われる抗HIV薬を、感染前から予防のために使う方法です。経口PrEPの代表的な成分は、テノホビルとエムトリシタビンです。HIVが細胞内で増える際に必要な「逆転写」という働きを妨げます。[1][3]
- 行為の前から服用予防に必要な薬の濃度を体内で保つ
- HIVの増殖を抑えるウイルスが細胞内で増える過程を妨げる
- 感染リスクを下げる継続した服薬と検査で予防を続ける
ワクチンのように、接種後に長く免疫が残るものではありません。飲むのをやめれば、予防に必要な薬の濃度は低下していきます。また、すでにHIVに感染している人の治療を、PrEP用の薬だけで行うことはできません。[1][2]
PrEPは行為前からの予防、PEPは行為後の緊急対応
| 比較項目 | PrEP (プレップ) |
PEP (ペップ) |
|---|---|---|
| 目的 | 今後の感染機会に備える | すでに起きた感染機会に対応する |
| 開始時期 | 原則として行為の前から | 行為後できるだけ早く、72時間以内 |
| 服用期間 | 感染機会がある期間に合わせて計画 | 通常28日間 |
| 診察で確認すること | HIV陰性、薬の適否、服薬・検査の計画 | 行為の内容・時刻、緊急予防の必要性 |
PrEPを飲んでいなかった、飲み始めたばかりだった、数日飲み忘れていたという場合は、行為後に薬を追加するだけで済ませず、PEPが必要か相談してください。PEPの終了後も感染機会が続く方は、検査を受けながらPrEPへの移行を相談できます。[1]
PrEPの予防効果はどのくらい?
「約99%」は、正しく使用した場合のリスク低減の目安
米国CDCは、処方どおり使用したPrEPによって、性行為によるHIV感染リスクが約99%低下すると説明しています。これは「服用した人の1%が感染する」「どの行為でも感染確率が1%になる」という意味ではありません。PrEPを使用しない場合と比べたリスクの低下を表します。[2]
約99%という目安と、飲み忘れも含めた臨床試験全体の結果は区別する必要があります。代表的な経口PrEPの研究を、条件とともに示します。表のTDF/FTCは、テノホビル ジソプロキシルとエムトリシタビンを組み合わせた薬の略称です。
| 研究・使用方法 | リスクの低下割合・注意点 |
|---|---|
| iPrEx試験:TDF/FTCの毎日服用 | 男性と性交する男性やトランスジェンダー女性など2,499人を対象に、試験全体で44%の低下。飲み忘れなどを含めた結果です。 |
| IPERGAY試験:TDF/FTCのオンデマンド服用 | 男性と肛門性交を行う男性400人を対象に、86%の低下。誰にでも、どの薬にも使える服用法を示した研究ではありません。 |
いずれもプラセボとの比較です。対象者や使用条件が異なるため、44%と86%を比べて「オンデマンド法のほうが優れている」とは判断できません。 iPrExでは体内に薬が検出された人ほど感染が少なく、服薬を続けることの重要性が示されました。[4][5]
梅毒・淋菌・クラミジアは予防できません
PrEPが予防するのはHIVです。梅毒、淋菌、クラミジア、性器ヘルペスなどをまとめて予防する薬ではありません。コンドームなどの対策や、接触した部位に応じた性感染症検査も組み合わせます。[1][2]
細菌性の性感染症を予防する目的で使う「ドキシペップ(DoxyPEP)」とは、薬も対象となる感染症も異なります。詳しくはドキシペップの効果・使い方・注意点をご覧ください。
どのような人がPrEPを相談できますか?
HIVに感染していない方で、今後の感染機会に備えたい場合に相談できます。たとえば、コンドームを使わない性行為がある方、性感染症を繰り返している方、PEPを受けたあとも同様の感染機会が続く方などです。パートナーのHIV検査結果がわからず、不安を感じている場合も相談のきっかけになります。[1][2]
性別、性的指向、職業だけで必要・不要を決めるものではありません。性行為の内容や頻度、これまでの検査結果、服用中の薬、腎臓や肝臓の状態などから、予防の利益と負担を一緒に考えます。
なお、HIV陽性のパートナーが治療を続け、ウイルス量が検出限界未満に抑えられている状態を維持していれば、性行為でHIVをうつすことはありません(U=U)。その場合も、ほかの感染機会やご本人の希望を含めてPrEPの必要性を相談できます。[2]
女性にも選択肢がありますが、薬ごとの根拠が異なります
女性もPrEPを相談できます。飲み薬には、前述のTDF/FTCと、テノホビル アラフェナミドを用いたTAF/FTCという配合薬があります。どちらを使うかは、感染機会や体の状態に合わせて判断します。
TDF/FTCは、腟性交による感染リスクを含めて研究されています。一方、TAF/FTCについて、米国CDCは腟性交で受け手となる場合のPrEPには推奨していません。日本の2025年版手引きでは、その後の研究も踏まえてTAF/FTCの使用に言及していますが、薬剤・対象・服用方法によって根拠の強さが異なることを説明しています。[1][2]
当院の採用薬はTAF/FTCです。感染機会、妊娠・授乳の状況、ホルモン療法の有無などを確認し、医師が当院の薬でPrEPを行えるかを判断します。他院での薬を含め、自己判断で置き換えたり、飲み方を変えたりしないでください。
飲み方は?開始・飲み忘れ・中止の目安
当院では、毎日1錠のデイリーPrEPを行っています
感染機会のある期間、性行為の有無にかかわらず毎日1錠を服用し続ける方法です。当院ではオンデマンド法(2-1-1法)は提供していません。
飲み忘れを減らすため、朝食後や歯磨き後など、毎日の習慣と組み合わせると続けやすくなります。アラームやカレンダーの利用、次の受診までに薬が足りるかの確認も役立ちます。
いつから効果を見込めますか?
日本の「PrEP利用の手引き 第2版」では、デイリーPrEPを感染機会の7日前から、1日1回1錠で開始する方法が示されています。飲み始めた当日から十分な予防効果があると考えないでください。[1]
一方、米国CDCは、毎日服用して予防に関わる薬物濃度が最大に達する目安を、受け手の肛門性交では約7日、受け手の腟性交などでは最長約21日と説明しています。異なる指針の数字を、そのまま一人ひとりの「感染しなくなる日」に置き換えることはできません。使用する薬と感染機会に合わせて、開始時期を診察で確認します。[2]
すぐに感染機会がある場合や、すでに行為があった場合は、その日時を伝えてください。自己判断で初回の錠数を増やすのではなく、PEPの必要性を含めて確認します。
飲み忘れたとき・やめたいときはどうしますか?
| 状況 | 対応の考え方 |
|---|---|
| 1回飲み忘れた | 気づいた時刻と次の服用時刻に応じて対応します。埋め合わせに2回分をまとめて飲まず、処方時の指示を確認してください。 |
| 数日飲めなかった・薬が切れた | 最後に飲んだ日と性行為の日を伝え、再開方法を相談します。直近72時間以内の行為があれば、PEPの評価を急ぎます。 |
| 感染機会がなくなったのでやめたい | 最後の行為の当日で終わりにせず、必要な継続日数を確認します。 |
| しばらく中断したあと再開したい | 中断中の感染機会やHIV検査の必要性を確認してから再開します。 |
中止前に必要な服用期間は一律ではありません。国内手引きでは、シスジェンダー男性と、性別適合ホルモン療法を受けていないトランスジェンダー女性では最後の性行為後2日間、シスジェンダー女性・トランスジェンダー男性・ホルモン療法中のトランスジェンダー女性などでは7日間という区分を示しています。B型肝炎がある方は、中断による肝炎悪化にも注意が必要です。服用を終える日は、あらかじめ処方医と相談して決めておきましょう。[1]
オンデマンドPrEP(2-1-1法)とは?
性行為の前後に合わせて服用する方法です。代表的な2-1-1法は、行為の2~24時間前に2錠、その服用から24時間後・48時間後に1錠ずつ飲む方法ですが、強い根拠があるのは主にTDF/FTCを使った特定の対象者での研究です。性行為が連日続く場合などには服用計画も変わります。[1][5]
TAF/FTCのオンデマンド使用は同じ強さの根拠があるわけではありません。国内手引きでも根拠の限界を踏まえた説明が必要とされています。当院では2-1-1法を提供しておらず、上記は当院の処方薬の飲み方ではありません。
開始前と服用中に、どのような検査が必要ですか?
PrEPは、薬を入手すれば準備が完了するものではありません。HIVに感染していないことと、薬を使える体の状態を確認し、服用中も定期的に見直します。[1][2]
| 時期の目安 | 主に確認すること |
|---|---|
| 開始前 | HIV検査、最近の感染機会と症状、腎機能、B型肝炎。ほかの性感染症や妊娠の可能性なども状況に応じて確認 |
| 開始約1か月後 | HIV検査、飲み忘れ、副作用、今後もPrEPが必要か |
| 継続中は少なくとも3か月ごと | HIV検査、服薬状況、感染機会。梅毒・淋菌・クラミジアなどの検査も検討 |
| 腎機能などは状態に応じて | 年齢、開始時の腎機能、併用薬などに応じて間隔を決定。TAF/FTCでは脂質・体重なども確認 |
上記は国内外の指針に基づく目安で、すべての検査が当院の一つの採血料金に含まれるという意味ではありません。検査項目と間隔は、診察時に確認してください。[1][2]
HIV検査が陰性でも、直近の感染は確認が必要です
感染したばかりの時期は、HIV検査が陰性になる場合があります。開始前の検査結果だけでなく、直近の性行為の日付、発熱・発疹・のどの痛みなどの症状、直前まで使っていたPEPやPrEPについても伝えてください。必要に応じて精密検査を追加したり、開始を見合わせたりします。[1][2]
HIVに感染している状態で、治療に必要な組み合わせがそろわないままPrEPを使うと、薬が効きにくい耐性ウイルスが生じる可能性があります。このため、服用中もHIV検査を続ける必要があります。
検査時期の詳しい説明はHIVの症状と検査の解説をご確認ください。
副作用や、長く飲み続ける際の注意点
飲み始めに吐き気、下痢、頭痛などが出る場合があります。軽い症状は時間とともに落ち着くこともありますが、強い症状や続く症状は処方医へ相談してください。[2][3]
テノホビルを含む薬では腎機能の変化に注意が必要です。TDF/FTCでは骨密度への影響も確認されており、TAF/FTCでは脂質や体重なども含めて評価します。「新しい薬だから副作用がない」「腎臓の検査をしなくてよい」というわけではありません。[1][2]
B型肝炎・持病・併用薬を伝えてください
PrEPに使われる成分には、B型肝炎ウイルスを抑える作用もあります。B型肝炎に感染している方が自己判断で中断すると、肝炎が悪化することがあります。B型肝炎があることだけで一律にPrEPを使えないわけではありませんが、専門的な管理が必要です。[1][2]
鎮痛薬の大量・継続使用、腎臓に影響する薬、ヘルペス治療薬など、併用薬によっては確認が必要です。処方薬に加え、市販薬・サプリメントもお知らせください。妊娠中・授乳中・妊娠を希望する場合も、使用する薬を個別に検討します。[2][3]
当院のPrEPと費用、日本での承認状況
モイストクリニックでは、診察・検査を行って処方します
当院は自由診療で、Hetero社のTafero-EM(TAF/FTC配合薬)を用いた、毎日1錠のデイリーPrEPを行っています。Tafero-EMは、日本で承認されていない海外製医薬品です。 使用にあたっては薬の説明を受け、検査結果などを踏まえて医師が処方の適否を判断します。
| 内容 | 費用 |
|---|---|
| 薬剤1か月分(30錠) | 9,000円 |
| 初回採血 | 別途4,500円 |
| 初回の薬剤1か月分+採血 | 合計13,500円 |
| 継続中の定期採血 | 1回4,500円 |
初回採血は薬代に含まれません。追加の性感染症検査などを希望する場合は、必要な項目と料金をご案内します。
- 診察で相談今後の感染機会・持病・服用中の薬を確認
- 検査と服用計画HIV陰性と薬の適否を確認し、開始日を決める
- 定期的に見直し検査・副作用・薬の残数を確認して継続
すでにPrEPを使っている方は、薬の名前がわかるものと、直近のHIV・腎機能・B型肝炎などの検査結果をご用意いただくと相談が進めやすくなります。
国内承認薬と海外製の薬は、区別して確認しましょう
日本では、ツルバダ配合錠が2024年8月にデイリーPrEPの適応承認を受けています。国内承認薬があることと、当院の採用製品が日本で承認されていることは別です。PrEP目的の使用は自由診療となります。[1][3]
薬の名前・成分だけでなく、正規の流通経路、使用前後の検査、体調が変わった際の相談先を確認することが大切です。個人で入手した薬を使っている場合も、薬の現物や包装を持って診察で相談してください。
注射によるPrEPもありますか?
海外では、毎日の服薬に代わる持続性の注射薬も使われています。米国ではカボテグラビルに加え、2025年にレナカパビルのPrEP製剤Yeztugoが承認されています。注射薬にもHIV検査や決められた時期の投与が必要で、「一度受ければ感染しない」というものではありません。当院の本ページで案内しているのは、飲み薬によるデイリーPrEPです。[2][6]
監修医師

モイストクリニック院長 金谷 正樹 医師
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療を行っています。日本性感染症学会の会員として活動しています。細菌学と免疫学の知識を活かし、患者さんご本人とパートナーを含めた診療を大切にしています。
