梅毒は、ペニシリン系などの抗菌薬で治療する病気です。主な選択肢には、ステルイズの筋肉注射と、アモキシシリンなどの飲み薬があります。病期、薬のアレルギー、妊娠の有無などから、使う薬と期間を決めます。[1][10]
注射で治療する場合、早期梅毒は原則1回、後期・感染時期不明は週1回・計3回です。投薬後も血液検査で効果を確認するため、「薬を使い終わる日」と「治ったと判断する時期」は同じではありません。
梅毒には、どんな治療薬を使いますか?
国内では、ペニシリン系の注射薬・内服薬が主な治療の選択肢です。ペニシリン系の薬を使えない場合などには、別の抗菌薬を検討します。[1]
梅毒の原因は「梅毒トレポネーマ」という細菌です。薬を選ぶ際は、症状や検査結果に加え、感染からの期間、以前の治療、アレルギー歴などを確認します。検査で陽性になった方も、過去の治療による反応が残っている場合があるため、結果だけで自己判断して薬を使わないことが大切です。[3][8]
| 主な治療薬 | 薬の種類・治療での位置づけ |
|---|---|
| ステルイズ(筋肉注射) | 持続性のペニシリン製剤。国内の治療指針で第一選択の一つです |
| アモキシシリン(飲み薬) | ペニシリン系。国内の治療指針で第一選択の一つです |
| ミノサイクリン(飲み薬) | テトラサイクリン系。国内の治療指針では第二選択で、妊娠中には使用しません |
ステルイズの成分名はベンジルペニシリンベンザチンです。アモキシシリンの製品名にはサワシリン、ミノサイクリンの製品名にはミノマイシンなどがあります。
表は成人の一般的な選択肢です。当院の内服治療で使用している薬はミノマイシンです。表にあるすべての薬を当院で処方するという意味ではありません。神経・眼・耳の梅毒では、点滴など別の治療を検討します。[1][2][4]
市販薬や、以前の抗菌薬の残りで治せますか?
梅毒を治療できる市販薬はありません。診察で薬の種類、量、必要な期間を決める必要があります。症状が似ているからと、以前処方された抗菌薬を使うことは避けてください。
抗菌薬なら何でも効くわけではありません。例えばアジスロマイシンは、耐性や治療失敗の問題から、CDCの治療ガイドラインでは梅毒治療に使用しないよう勧められています。[6]
症状が消えたら、薬は必要ありませんか?
しこりや発疹は、治療しなくても一時的に消えることがあります。見た目が改善しただけでは、感染がなくなったとは判断できません。気になる症状があり、まだ診断されていない場合は、梅毒の初期症状と見分け方も参考にしてください。[10]
注射と飲み薬は、どう違いますか?
大きな違いは、医療機関で必要な回数を注射するか、自宅で毎日の服薬を続けるかです。注射なら飲み忘れがありません。一方で、注射の痛みやアレルギーに注意し、3回必要な場合は予定どおりの通院が必要です。
| 比較する点 | ステルイズの筋肉注射 | 飲み薬 |
|---|---|---|
| 薬を使う場所 | 医療機関で注射 | 処方を受け、自宅などで服用 |
| 続けるうえでの負担 | 毎日の服薬は不要。複数回の場合は予定どおりの来院が必要 | 指定された回数・日数の服薬が必要 |
| 主な注意点 | 注射部位の痛み・腫れ、薬剤アレルギー | 薬によって胃腸症状、めまい、飲み合わせなど |
どちらも投薬後の血液検査が必要です。「早く終わるから注射」「痛くないから飲み薬」と希望だけで決めるのではなく、病期、妊娠、アレルギー、通院・服薬を続けられるかを確認して選びます。当院では、適応がある場合はステルイズの筋肉注射を第一選択として検討します。受診を検討している方は、当院の治療・料金もご確認ください。
ペニシリンアレルギーなら、飲み薬に変えればよいですか?
アモキシシリンもペニシリン系の薬です。注射から飲み薬に変えるだけで、アレルギーを避けられるとは限りません。過去に薬で起きた症状と薬の名前を医師へ伝え、代わりの治療を相談してください。[1][2]
注射は、なぜ1回で治療できるのですか?
ステルイズは、注射した場所から成分がゆっくり吸収される、持続性のペニシリン製剤です。早期梅毒では、この性質を利用した1回投与が標準治療になっています。日本では2021年に承認され、2022年1月に販売が始まりました。[2]
ただし、注射直後に治癒が確認できるわけではありません。投与後は院内で体調の変化を観察し、後日の採血で反応を確認します。注射1回という案内を「来院は1回だけ」「翌日から性行為を再開できる」と読み替えないでください。
早期梅毒で注射1回と3回を比べた研究
以下は早期梅毒の注射治療に限った研究です。2025年の比較試験では、早期梅毒の249人に持続性ペニシリンの筋肉注射を1回、または週1回・計3回投与しました。6か月後に、研究で定めたRPRの改善に達した割合は1回群76%、3回群70%で、1回投与は3回投与に劣らないという結果でした。[7]
これは「RPRが陰性になる、または希釈法の値が治療前の4分の1以下になる」という検査上の反応です。完治率や治療失敗率そのものではありません。両群とも臨床的な再発・治療失敗は報告されていませんが、6か月時点で検査上の基準に達しない場合は、その後も経過観察と必要に応じた評価が必要です。
参加者の97%が男性、61%がHIV感染のある方でした。早期梅毒の注射薬の試験であり、内服薬の成績や、後期・感染時期不明でも1回でよいという根拠にはなりません。
希望した薬がない場合は、どうしますか?
2026年8月には、学会からステルイズとアモキシシリンの供給制限に関する通知が出ています。使える薬は施設の在庫や患者さんの状態によって変わります。[13]
注射薬の入荷だけを待って必要な治療を遅らせず、受診先で選べる治療を相談してください。同通知では、非妊娠の成人でアモキシシリンの確保も難しい場合に、第二選択のミノサイクリンを検討することが示されています。この通知は、当院の現在の在庫状況を示すものではありません。
梅毒の治療期間は、どれくらいですか?
注射の回数は病期で変わり、飲み薬の日数は薬の種類・用量・病期などで変わります。どちらも、投薬後の経過観察まで含めて治療計画を立てます。[1][2]
| 病期・治療 | 薬を使う回数・期間の目安 | 期間を考えるときの注意 |
|---|---|---|
| 早期梅毒の筋肉注射 | 原則1回 | 第1期・第2期、感染から1年未満の早期潜伏梅毒などが対象 |
| 後期・感染時期不明の筋肉注射 | 週1回、計3回 | 例:初日・1週間後・2週間後に投与 |
| 飲み薬 | 「梅毒診療の考え方」(2024)ではアモキシシリン・ミノサイクリンを28日間投与 | 別の用量・併用法もあり、内服薬すべてに一律の日数は当てはまりません |
| 神経梅毒・眼梅毒・耳梅毒 | ペニシリンGの点滴10〜14日間など | 専門医療機関で評価。通常の筋肉注射とは異なる治療 |
表は成人の目安です。例えば国立健康危機管理研究機構の診療ハンドブックには、アモキシシリンとプロベネシドを併用する別の治療方法も記載されています。薬の量や組み合わせが異なるため、他の人の治療日数を自分の処方へ当てはめないでください。[15]
症状がない、感染した時期が分からない場合は?
症状のない梅毒を「潜伏梅毒」と呼びます。症状がなくても治療が必要な場合があり、過去の検査や症状、治療歴から判断します。[3]
早期の感染と判断できない潜伏梅毒では、後期・感染時期不明として、注射は原則計3回です。初めて陽性になった日が、感染した日とは限りません。以前の検査票やお薬手帳があれば、受診時にお持ちください。[12]
3回の注射の予定に行けなくなったら?
3回の注射の予定に来院できなくなった場合は、分かった時点で治療先へ連絡してください。間隔が空くと治療日程の組み直しが必要になる場合があります。自己判断で1回だけ受けて通院を終えないようにしましょう。[12]
飲み薬の治療中に、気をつけることは?
症状が軽くなっても、処方された期間を自己判断で短くしないでください。「梅毒診療の考え方」ではミノサイクリンの28日間投与が示されています。当院でも病期や検査結果などを確認し、必要な日数を医師が判断します。[1][13]
処方時には、薬を飲み終える日と次回の受診予定を確認しましょう。手元の薬を飲み終えたことだけで、治療がすべて済んだとは判断できません。
飲み忘れや、吐いてしまったときは?
一度に2回分を飲んで埋め合わせることは避けてください。飲み忘れや嘔吐があった場合は、いつ服用したか、何回分飲めなかったかを処方元や薬剤師へ伝えます。吐いたからと追加で飲むかどうかを自己判断せず、指示を確認してください。[5]
副作用で続けられないときも、治療を放置せず薬や方法の見直しを受けられます。強い症状がある場合は、下の「発熱・副作用への対応」を確認してください。
ミノマイシン服用中の運転・飲み合わせ
ミノマイシンは、めまいが起こることがあるため、服用中は車の運転や危険な機械作業を避けてください。[5]
鉄剤、カルシウム・マグネシウムを含む薬などは、ミノマイシンの吸収を妨げることがあります。市販薬やサプリメントも含め、服用しているものを医師・薬剤師に伝え、飲む間隔を確認しましょう。[5]

治療後の発熱は副作用?どう対応しますか?
梅毒治療を始めたあとには、薬剤アレルギーとは別に、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応という一時的な炎症反応が起こることがあります。開始後24時間以内の発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、発疹の悪化などがみられ、通常は24時間程度で落ち着きます。[1][8]
ただし、発熱の時期だけで原因を見分けることはできません。「薬が効いている証拠だから我慢する」と考えず、症状の強さや変化も確認してください。
治療後に気をつけたい症状と対応
| 起きていること | 対応の目安 |
|---|---|
息苦しい、のど・顔が腫れる、意識が遠のく |
重いアレルギー反応の可能性があります。様子を見ず、救急要請を含めて対応してください |
広い範囲のじんましん、強い注射部位の痛み、皮膚の色の変化 |
速やかに医療機関へ連絡してください |
治療開始後の発熱や悪寒が強い、長引く、対応が分からない |
ヘルクスハイマー反応と自己判断せず、処方元へ連絡してください |
注射部位の痛み・腫れ、内服中の胃腸症状などがつらい |
治療先に相談し、症状への対処や治療継続の方法を確認してください |
表は症状から診断するためのものではありません。使った薬、症状が始まった時刻、症状の変化を伝えると、受診先が判断しやすくなります。[2][5]
薬を使い終えたら治った?治療後の検査と判定
治療効果は、症状の変化と、血液検査のRPR値の推移などを合わせて判断します。発疹が消えた、注射が終わった、薬を飲み切ったということだけでは判定できません。[1][3]
TP抗体が陽性のままでも、大丈夫ですか?
RPRは、治療への反応を追う検査です。もう一つのTP抗体は、治療後も長期間陽性が残ることがあります。TP抗体が陽性のままという理由だけで、治療失敗とは判断しません。[8]
採血はいつ受けますか?
当院では、治療開始から1か月・3か月・6か月を目安に採血します。投薬が終わった日ではなく、治療を始めた日から数える目安です。その後も、病期や検査値の経過に応じて検査を続けます。

「梅毒診療の考え方」でも、およそ1年間の経過観察が勧められています。すべての人が6か月で通院終了になるわけではなく、経過観察の間ずっと薬を使い続けるという意味でもありません。[1]
数値がどこまで下がれば、効果があったと判断しますか?
RPRは、治療前の値と比較します。国内の自動化法ではおおむね半分以下、従来の希釈法では4分の1以下への低下などが目安です。ただし、症状やその後の変化も合わせて医師が評価するため、値だけで通院を終えないでください。[3][9]
測定方法や検査機関が違う結果を、そのまま比較できない場合もあります。転院時には、過去の検査票、薬の名前、投与日・服用期間を持参すると経過を確認しやすくなります。
RPRがなかなか下がらないと、再治療が必要ですか?
直ちに再治療が必要とは限りません。治療が適切でも数値の低下に時間がかかる場合や、低い値の陽性が残る場合があります。[6]
一方、症状が続く・再び出る、RPRが上昇するといった場合は、再感染していないか、治療効果が不十分ではないかを評価します。検査値だけを見て残りの薬を追加したり、別の薬へ変えたりせず、治療先で経過を確認してください。
性行為はいつから?パートナーの検査は必要?
治療が済み、感染性について医師が安全と判断するまでは、性行為を控えてください。オーラルセックスも含みます。本人の治療、皮膚・粘膜の病変、パートナーの検査・必要な治療が済んでいるかを確認します。[10]
コンドームで覆われない場所の病変からうつる場合もあります。口の周りや口内に病変がある場合は、キスなど病変との接触も避けます。[10]
注射の翌日や、飲み薬の最終日に再開できますか?
投薬日や最終日だけでは決められません。具体的な期間の参考として、英国NHSは、本人とパートナーの双方が治療を終えてから2週間は性行為を控えるよう案内しています。これは当院の一律の再開基準ではありません。病変が残る場合や相手の治療が済んでいない場合も含め、診察時に再開の目安を確認してください。[14]
また、長期の採血予定があるからといって、その間ずっと性行為ができないという意味でもありません。治療効果を追う採血と、相手に感染させる可能性の評価は分けて考えます。TP抗体が完全に陰性になることを、再開条件にはしません。
パートナーに症状がない場合は?
症状がなくても、検査・診察を勧めます。感染直後は検査が陰性になることがあるため、最後に接触した日と、あなたが梅毒と診断されたことを受診先へ伝えてもらいましょう。接触時期などによっては、検査結果を待たずに治療を検討する場合もあります。[8]
梅毒は、治療後も再感染します。自分だけが治療を終えても、パートナーに感染が残っていれば再び感染する可能性があります。初回検査や再検査の時期は、梅毒検査はいつから受けられる?で説明しています。
妊娠中や、目・耳・神経の症状がある場合の治療
妊娠中の梅毒は、赤ちゃんへの感染を防ぐためにも速やかな評価と治療が必要です。ミノサイクリンは、国内の治療指針で妊婦に使用しないことが示されています。妊娠中・妊娠の可能性がある場合は、自己判断で内服薬を使わず、診察時にお伝えください。[1][11][13]
当院では検査と、ご希望に応じた紹介状の発行を行い、妊娠中の治療は専門医療機関へご紹介します。
神経梅毒・眼梅毒・耳梅毒は、感染から長い時間がたった方だけに起こるものではありません。見え方の変化、聞こえにくさ、強い頭痛、しびれなどがある場合は、病期にかかわらず評価が必要です。専門医療機関で、ペニシリンGの点滴10〜14日間などを検討します。[4]
モイストクリニックの梅毒治療・料金
当院は自由診療です。病期、検査結果、アレルギー歴などを確認し、注射または内服の方法と必要な回数・期間をご案内します。ステルイズの在庫・供給状況は変動するため、注射を希望する場合は受診前にお問い合わせください。
| 治療・検査 | 料金(税込) | 料金の単位・条件 |
|---|---|---|
| ステルイズの筋肉注射 | 24,800円/回 | 1回分。早期は原則1回、後期・感染時期不明は週1回・計3回 |
| 内服治療(ミノマイシン) | 14,980円/28日分 | 28日分の薬代。必要な治療期間は医師が判断します |
| 梅毒検査 | 2,500円 | 治療効果の評価などでは精密検査を追加します |
| 精密検査の追加 | +2,000円(検査合計4,500円) | 基本の検査料金に追加します |
注射・内服の料金は、初回検査や治療後の再検査を含む一律の総額ではありません。必要な検査、投与回数、処方日数に応じて費用が変わります。治療・検査の各項目は、性感染症の検査・治療料金表をご確認ください。
再治療の薬代が無料となる制度について
当院の内服治療を28日分完了し、その後の再検査で、ガイドラインに沿って医師が再治療の対象と判断した場合に適用します。無料となるのは再治療の薬代で、診察料・再検査料は含みません。
回数上限は現時点では設けていませんが、再感染、飲み忘れ・中断、他院での治療などは個別に判断します。一部の治療方法は対象外です。TP抗体の陽性や症状が残ることだけで、自動的に適用される制度ではありません。
受診時に用意するもの
- 他院・保健所で受けた検査の結果
- 過去に使った治療薬と、投与日・服用期間が分かる記録
- 薬のアレルギー歴、服用中の薬・サプリメントの情報
妊娠の可能性や、目・耳・神経の症状がある場合もお伝えください。診断時にはHIVなど、ほかの性感染症の検査も必要に応じて検討します。[6]
医師紹介

モイストクリニック院長 金谷 正樹 医師
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療を行っています。日本性感染症学会の会員として活動しています。細菌学と免疫学の知識を活かし、患者さんご本人とパートナーを含めた診療を大切にしています。
参考資料
- 梅毒診療の考え方(2024、日本感染症学会掲載)
- ファイザー:ステルイズ水性懸濁筋注 添付文書
- 日本性感染症学会:梅毒診療の基本知識(2024)
- CDC:Neurosyphilis, Ocular Syphilis, and Otosyphilis
- PMDA:ミノマイシン錠50mg 添付文書・患者向医薬品ガイド
- CDC:Primary and Secondary Syphilis
- Hookら:One Dose versus Three Doses of Benzathine Penicillin G in Early Syphilis(2025)
- CDC:Syphilis — STI Treatment Guidelines
- 日本性感染症学会:梅毒診療ガイド第2版(2023)
- 厚生労働省:梅毒に関するQ&A
- CDC:Syphilis During Pregnancy
- CDC:Latent Syphilis
- 日本性感染症学会:ペニシリン製剤の供給制限下における適正使用について(2026年8月24日)
- NHS:Syphilis
- 国立健康危機管理研究機構:梅毒/HIV感染症とその合併症「診療と治療のハンドブック」




