【医師監修】HIV PEP(暴露後予防)の効果|72時間以内の緊急対応

「コンドームが破れてしまった」「相手の感染状況がわからない」「同意のない行為があった」

もし、HIV感染のリスクがある行為から72時間以内であれば、感染を未然に防ぐ方法があります。
それが、PEP(Post-Exposure Prophylaxis:暴露後予防内服)です。

PEPは、HIVに曝露した可能性がある後に、抗HIV薬(抗レトロウイルス薬)を一定期間内服することで感染を予防する「緊急予防策」です。曝露後できるだけ速やかに内服を開始し、十分な期間継続することで体内へのウイルス定着を防ぎます。

※PEPはあくまで緊急対応策であり、曝露前から抗HIV薬を内服するPrEP(暴露前予防)とは区別されます。

💡 30秒でわかる「HIV PEP(暴露後予防)」

PEPとは?
HIV感染リスクの直後(暴露後)に抗HIV薬を内服し、ウイルスの定着を防ぐ緊急予防法。
タイムリミットは?
暴露後72時間(3日)以内の開始が必須。
早ければ早いほど成功率は高まります。
内服期間は?
原則として28日間(4週間)連続で服用します。
予防効果は?
適切に実施した場合の予防効果は約70〜90%以上とされ、極めて高い効果が期待できます。
※本記事は、厚生労働省・国立感染症研究所の資料、およびWHO/CDCの最新ガイドライン(2024-2025年版)を参照し、モイストクリニック(東京都渋谷区恵比寿)が作成しています。
目次

1. HIVのPEP(暴露後予防内服)とは?

PEP(Post-Exposure Prophylaxis)は、日本語で「暴露後予防内服」と訳されます。これは単に「感染確率を下げる」という曖昧なものではなく、HIVの生活環(ライフサイクル)の特定の段階を薬理学的に遮断し、ウイルスが人体に定着するのを物理的に阻止する医療介入です。

緊急予防策としての仕組み

HIVが体液(精液、血液など)を介して体内に入ったとしても、その瞬間に全身感染が成立するわけではありません。ウイルスが最初の標的細胞(CD4陽性リンパ球や樹状細胞など)に取り付き、自身の遺伝子をヒトの遺伝子に組み込むまでには、わずかながら「時間の猶予(Window of Opportunity)」が存在します。PEPはこの隙をついてウイルスの増殖サイクルを断ち切ります。

🦠 ウイルスの侵入から定着までの流れとPEPの作用
1

侵入と初期付着(暴露直後)

HIVが粘膜や傷口から侵入し、付近の免疫細胞(ターゲット細胞)に接触・侵入します。この段階ではまだウイルスは局所に留まっており、全身には回っていません。

2

逆転写と統合(数時間〜72時間) ※PEPの主戦場

ウイルスは自身のRNAをDNAに書き換え(逆転写)、ヒトのDNAに組み込もうとします(統合/インテグレーション)。
ここでPEP薬(核酸系逆転写酵素阻害薬 + インテグラーゼ阻害薬)が介入し、DNAへの書き換えと組み込みをブロックします。

3

全身播種とリザーバー形成(72時間以降〜)

一度ヒトのDNAにウイルス情報が組み込まれてしまうと(プロウイルスの形成)、薬で完全に排除することは極めて困難になります。これを「ウイルスリザーバー化」と呼び、永続的な感染成立を意味します。

🛡️ PEP薬がブロックする2つのポイント

  • 逆転写の阻害
    (ウイルスRNA → ウイルスDNAへの変換を止める)
  • インテグレーションの阻害
    (ウイルスDNAがヒトの核内に入り込むのを防ぐ)
結論:
ウイルスが「自分のコピー工場」を体内に建設し終える前に、建設現場を封鎖するのがPEPです。
👨‍⚕️ 専門医の視点:なぜ「72時間」なのか?
動物実験や過去の臨床データにおいて、暴露から72時間を超えるとウイルスは所属リンパ節を超えて全身に広がり(播種)、リザーバー(隠れ家)を形成してしまうことが分かっています。リザーバーが形成されると、PEP薬で増殖を抑えることはできても「排除」はできなくなります。これが、72時間というタイムリミットが設けられている医学的な理由です。

PrEP(暴露前予防)との決定的な違い

PEP(暴露後予防)とPrEP(暴露前予防)は、どちらも抗HIV薬を用いて感染を防ぐ手段ですが、その「医療的介入の目的」「使用する薬剤の強度」において明確な区別があります。

比較項目 PEP(暴露後予防)
Post-Exposure Prophylaxis
PrEP(暴露前予防)
Pre-Exposure Prophylaxis
概念・目的 緊急消火
事故や予期せぬリスク発生後の緊急回避策。既に侵入した可能性のあるウイルスの定着を阻止する。
防火壁
継続的なリスクに備えた事前防御策。あらかじめ血中の薬物濃度を高めておき、ウイルスの侵入を即座に弾く。
開始時期 暴露後72時間以内
(一刻も早く開始する必要がある)
暴露前
(性行為の数日前〜数時間前から開始)
薬剤構成
(レジメン)
3剤併用が標準
例:ビクタルビ(1錠に3成分)
※ウイルスを絶対に逃さないよう強力な構成を用いる。
2剤併用が標準
例:ツルバダ、デシコビ
※予防維持には2剤で十分なエビデンスがある。
服用期間 28日間(完了したら終了)
その後、リスクが続くならPrEPへ移行を検討。
リスクがある期間ずっと
Daily(毎日)または On-demand(行為前後)で継続。

👨‍⚕️ 専門医の解説:なぜPEPは「3剤」必要で、PrEPは「2剤」なのか?

これには「ウイルスの量」と「耐性バリア」の考え方が関係しています。

  • PrEP(2剤):
    まだウイルスが入っていない状態で待ち構えるため、2種類の薬剤で十分な防御壁を作れます。
  • PEP(3剤):
    既にウイルスが体内に侵入し、増殖を開始しようとしている緊急事態です。万が一、侵入したウイルスが薬剤耐性を持っていたり、増殖スピードが速かったりした場合でも確実に制圧するため、より強力な「インテグラーゼ阻害薬」を加えた3剤体制で徹底的に叩く必要があります。

【PEP to PrEP】という考え方
PEPが必要になったということは、その方のライフスタイルにおいてHIV感染リスクが高い可能性があります。欧米のガイドラインでは、PEPの28日間が終わった直後から、途切れることなくPrEP(事前予防)に移行することを強く推奨しています。これを「PEP to PrEP」と呼び、当院でもサポートを行っています。

2. PEPを検討すべき状況(適応)

PEPの適応は、曝露源(相手や対象物)のウイルス保有状況と、接触の形態(体液の種類・量・侵入経路)のリスクレベルを総合的に判断して決定します。

性的接触によるリスク(nPEP)

医療現場以外での曝露(nPEP: non-occupational PEP)の大半は、性行為に関連するものです。 医学的には「感染源となりうる体液(血液・精液・膣分泌液など)」「粘膜や傷口(侵入ポータル)」に直接接触した場合に感染リスクが発生します。

  • コンドームが破れた・外れた 行為中に破損し、相手の精液や血液に接触した可能性がある場合。
  • コンドームなしの性行為(生での挿入) 膣性交、肛門性交を問わず、粘膜接触があった場合。
  • 不特定多数との性交渉・相手の感染状況が不明 相手がHIV陽性である可能性が否定できない(ハイリスク層である)場合。
  • 性的暴行・同意のない行為 外傷(出血)を伴うケースも多く、感染リスクが跳ね上がります。緊急のケアが必要です。
📊 行為別:HIV感染リスクの目安(対 陽性者・1回あたり)
行為の種類 リスク評価 備考・専門医の見解
受動的 肛門性交
(いわゆる「受け/ボトム」)
高リスク
約 1.38%
粘膜が薄く傷つきやすいため、最も感染リスクが高い行為です。PEPを強く推奨します。
能動的 肛門性交
(いわゆる「立ち/トップ」)
中リスク
約 0.11%
挿入側であっても、尿道口や包皮粘膜からの侵入リスクがあります。
受動的 膣性交
(女性側・受け側)
中リスク
約 0.08%
精液が体内に留まるため、挿入する側よりもリスクが高くなります。
オーラルセックス
(フェラチオ・クンニ)
低リスク
極めて低い
口腔内の傷や炎症、歯周病による出血がある場合や、口腔内射精があった場合はリスクが生じます。
重要 パートナーがHIV陽性と分かっている場合

もし相手がHIV陽性であっても、適切な治療を受けてウイルス量が検出限界値未満(Undetectable)を6ヶ月以上維持している場合、性行為によって他者に感染させるリスクはありません(Untransmittable)。これを「U=U(Undetectable = Untransmittable)」と呼びます。相手が確実にこの状態であれば、医学的にPEPは不要と判断されますが、確証が持てない場合はPEPを開始するのが安全です。

医療事故・その他の暴露リスク

性行為以外でも、感染者の血液が直接体内に入る状況があればHIV感染のリスクは生じます。 医療従事者の針刺し事故(oPEP)が代表的ですが、日常生活でも類似のリスクは想定されます。

💉 経皮的暴露(針刺し・鋭利な刃物)

HIV含有血液が付着した針やメスが皮膚を貫通した場合です。 医療現場での事故のほか、注射器の回し打ち(薬物使用)や、不衛生な環境でのタトゥー・ピアスの施術などもこれに含まれます。

約 0.3% 感染成立リスク(1回あたり)

※針が太い、深く刺さった、針の中に血液が残っていた場合はリスクが高まります。

👁 粘膜暴露・創傷皮膚への飛散

感染者の血液や体液が、眼球、口腔、鼻腔などの粘膜に飛び散ったり、手荒れや傷のある皮膚に大量に付着した場合です。 健康な皮膚(傷のない皮膚)に血液がついただけでは感染しません。

約 0.09% 感染成立リスク(1回あたり)

※リスクは低いですがゼロではありません。大量の血液が目に入った場合などはPEP適応となり得ます。

🦷 ヒト咬傷(噛まれた場合)について

唾液のみではHIV感染リスクはありませんが、「ひどく噛まれて出血を伴う」かつ「加害者(噛んだ人)の口の中に出血があった」場合に限り、血液暴露としてPEPを検討します。

🚑 暴露直後の応急処置(First Aid)

万が一、針刺しや暴露が起きた直後は、以下の対応を行ってください。

  • 皮膚の場合:流水と石鹸で十分に洗浄する。強く絞り出す(スクイージング)必要はありません(組織を痛め、吸収を促進する恐れがあるため推奨されません)。
  • 粘膜(目・口)の場合:流水(生理食塩水または水道水)で十分に洗浄する。
  • その後、直ちに医療機関へ連絡し、PEPの相談を行ってください。

適応判断の基準について

PEPを開始するかどうかの医学的判断は、単一の要素ではなく、以下の3つの要素を掛け合わせた「複合的リスク評価」に基づいて行われます。

① 曝露源の評価
パートナーはHIV陽性か?
ウイルス量は検出可能か?
疫学的リスク(MSM等)は高いか?
② 曝露形態の評価
粘膜への直接接触があったか?
射精の有無、出血の有無。
コンドーム破損などの事故状況。
③ 時間的評価
事象発生から72時間以内か?
(72時間を超えている場合、医学的推奨度は著しく低下します)
👨‍⚕️ 医師による処方推奨度(ガイドライン準拠)
相手がHIV陽性
(ウイルス量が多い/不明)
【推奨】PEPを開始すべき

リスクのある接触(コンドームなし、破損、針刺し等)があった場合、迷わずPEPを開始します。

相手の感染状況が
わからない
【考慮】状況に応じ開始

nPEP(性交渉)で最も多いケースです。
相手が「感染率の高い集団(MSM、セックスワーカー等)」に属する場合や、不特定多数との接触がある場合は、陽性であると仮定してPEPを開始することが一般的です。

相手が陰性 または
治療中でU=U
【非推奨】PEPは不要

医学的に感染リスクがないため、PEPの適応とはなりません。ただし、ウィンドウ期(検査で反応が出ない初期)の可能性がある場合は慎重な判断を要します。

🏥 「相手が誰かわからない」場合の臨床現場での判断

実際の診療現場では、「行きずりの相手で連絡が取れない」「相手が検査を拒否した」というケースが非常に多く見られます。
厳密なガイドライン上は「リスク評価」を行いますが、現実には相手のステータスを確認できない以上、リスクを完全に否定することは不可能です。

そのため当院を含む多くの専門クリニックでは、「疑わしきは予防する(Precautionary Principle)」という観点と、患者様ご本人の「強い不安(Psychological distress)」を考慮し、72時間以内の受診であればPEP処方を行う体制をとっています。

3. 実施のタイムリミットと期間

PEPの成否は、開始のスピードと内服の継続にかかっています。ここでは、なぜ「時間制限」があるのか、そしてなぜ「28日間」飲み続けなければならないのか、その医学的根拠を解説します。

「72時間以内」が絶対条件である理由

⏳ 時間経過とPEP成功率(イメージ)
24時間以内
成功率:極めて高い
48時間以内
成功率:高い
72時間以内
効果低下のリスク
72時間以降
推奨されず

※72時間を1分でも過ぎたら効果がゼロになるわけではありませんが、医学的推奨の限界点です。

🧬 なぜ72時間を超えると手遅れなのか?

これには、HIVが体内で拠点を築くまでの「移動時間」が関係しています。

  1. 局所感染(0〜24時間):
    侵入したウイルスは、まず粘膜直下の細胞(樹状細胞など)に感染します。この時点ではまだ「侵入箇所の近く」に留まっています。
  2. リンパ節への移動(24〜48時間):
    感染した細胞は、ウイルスを抱えたまま近くのリンパ節へと移動を開始します。
  3. 全身播種とリザーバー形成(72時間〜):
    リンパ節に到達するとウイルスは爆発的に増殖し、血液に乗って全身へばら撒かれます(全身播種)。そして、薬剤が届きにくい「聖域(ウイルスリザーバー)」に潜伏します。
    一度リザーバーが形成されると、PEPでウイルスを排除することは不可能になります。そのタイムリミットが、生物学的におよそ72時間と考えられているのです。

28日間(4週間)の内服継続

PEPは「1回飲んで終わり」ではありません。処方された薬を28日間、毎日決まった時間に、1回も欠かさず飲み切る必要があります。

💊 なぜ28日間なのか?

過去の動物実験において、短期間(3日や10日など)で投薬を中止した場合、ウイルスが再活性化して感染が成立してしまった事例が確認されています。一方で、28日間の投与を行った群では感染阻止率が最大化されました。この確固たるエビデンスに基づき、世界中のガイドラインで「4週間」が標準期間と定められています。

開始前後の検査スケジュール

PEPは薬を飲むだけでなく、適切なタイミングでの検査(モニタリング)とセットで行う医療行為です。モイストクリニックでは、以下のスケジュールでフォローアップを行います。

Day 0
受診時
ベースライン検査(必須)
薬を飲む前に、すでにHIVに感染していないかを確認します。
HIV即日検査 B型肝炎 腎機能(Cre) 梅毒など

※既にHIV陽性だった場合、PEP(中途半端な治療)を行うと深刻な薬剤耐性を生むため、この事前確認は省略できません。

2-4週
内服中
副作用・服薬状況の確認
薬による副作用(吐き気や肝機能値の変化)が出ていないか、飲み忘れがないかをチェックします。
血液検査(肝・腎) 問診
3ヶ月
完了後
最終的な感染否定(判定)
PEP終了後、ウインドウ期間(検査に反応が出るまでの期間)を考慮し、十分な時間が経ってから最終確認を行います。
HIV第4世代検査 梅毒確認

ここでの「陰性」をもって、PEP成功(予防完了)となります。
※最近の第4世代検査では1ヶ月時点でも高い精度がありますが、念のため3ヶ月後での確認が推奨されます。

4. 最新の推奨レジメン(薬剤の組み合わせ)

かつてのHIV予防内服は、副作用の強い薬を1日に何回も飲む必要があり、途中で挫折してしまう例が少なくありませんでした。しかし現在は医学の進歩により、「副作用が少なく、1日1回1錠で済む」レジメンが標準となっています。

3剤併用療法が標準である理由

PEPでは原則として、異なる作用機序を持つ3種類の薬剤(成分)を同時に服用します。これは、ウイルスの増殖を確実に封じ込めるための「二重、三重の安全装置」です。

🛡️ 基礎防衛(2剤)
核酸系逆転写酵素阻害薬 (NRTI)
テノホビル(TAF) + エムトリシタビン(FTC)
ウイルスの遺伝子書き換えを妨害します。PrEPでも使われるベースとなる成分です。
🔥 強力な制圧(1剤)
インテグラーゼ阻害薬 (INSTI)
ビクテグラビル(BIC) または ドルテグラビル(DTG)
ウイルスのDNAへの侵入を強力にブロックします。薬剤耐性へのバリアが高く、PEPの成功率を飛躍的に高めた主役です。

この「2剤+1剤」の組み合わせにより、万が一ウイルスが1つの薬に耐性を持っていたとしても、他の2つが逃さず効果を発揮し、感染成立をほぼ100%近く防ぐことができます。

主な使用薬剤(ビクタルビ・Taffic等)

現在、世界的なガイドライン(WHO/CDC)で第一選択として推奨されているのは、3つの成分を1錠に凝縮した「配合錠」です。

ビクタルビ®配合錠 先発品(国内承認薬)
成分:ビクテグラビル / エムトリシタビン / テノホビルアラフェナミド
特徴:現在の世界標準薬。副作用が非常に少なく、食事の影響も受けないため服用しやすい。
課題:薬価が極めて高く、自費診療(nPEP)では1ヶ月分で十数万〜三十万円以上の費用がかかる場合がある。
アイセントレス デシコビ 旧標準・代替案
成分:ラルテグラビル + (TAF/FTC)
特徴:ビクタルビが登場するまでの標準レジメン。1日2回の服用が必要なため、飲み忘れのリスクがやや高まる。
現状:現在は妊婦の方など特定のケースを除き、1日1回1錠のタイプが優先されます。
当院の処方方針

患者様の「費用バリア」を取り除くために

日本の医療制度において、性行為などによる緊急予防(nPEP)は公的保険が適用されず、全額自費診療となります。
先発品である「ビクタルビ®」は非常に高価な薬剤であり、定価で提供すると「金額が高すぎてPEPを諦める」という本末転倒な事態になりかねません。

そこでモイストクリニックでは、より多くの患者様にPEPを届けるため、ビクタルビと同成分のジェネリック医薬品「Taffic(タフィック)」を採用・処方しています。

🧪 先発品とジェネリック(Taffic)の成分比較
成分名 先発品(ビクタルビ) 当院処方(Taffic)
ビクテグラビル
(強力なウイルス阻害)
50mg 50mg(同量)
エムトリシタビン 200mg 200mg(同量)
テノホビル
アラフェナミド
25mg 25mg(同量)
期待される効果 PEP成功率 99%以上 同等(生物学的同等)

👨‍⚕️ 院長のコメント:
Tafficは、世界的な製薬会社であるHetero Healthcare社(インド)が製造する医薬品です。インドは「世界の薬局」とも呼ばれ、HIV治療薬のジェネリック製造において世界トップレベルの技術とシェアを持っています。
WHO(世界保健機関)や国境なき医師団などの国際的なHIV支援プログラムでも同種のジェネリック薬が広く採用されており、「安かろう悪かろう」ではありません。
中身は最新の「世界標準レジメン」そのものですので、安心して服用し、費用を抑えた分をその後の検査やPrEP移行などのケアに充てていただきたいと考えています。

5. 副作用と身体への負担

「PEPの薬は副作用が辛くて飲み続けられない」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、それは10年以上前の古い情報です。現在のPEPは劇的に進化しており、日常生活を送りながら問題なく服用できるものになっています。

「飲みきれる」薬へ進化した最新PEP

ひと昔前(〜2010年代)
カレトラ等のプロテアーゼ阻害薬

下痢、激しい吐き気、倦怠感が頻発。
「副作用が辛すぎて28日間も続けられない」という脱落例が多く、完遂率は60%程度とも言われました。

現在(2020年代〜)
ビクタルビ・Taffic等の最新薬

副作用は最小限。
多くの人が「特に何も感じない」か「軽い胃の不快感」程度で済みます。完遂率は95%以上に向上しました。

95%

高い「忍容性(飲みやすさ)」が証明されています

最新の研究データでは、副作用による服用中止はわずか1〜2%程度です。
ほとんどの方が、仕事や学校を休むことなく28日間のプログラムを完了しています。

具体的な副作用と対処法

最新薬(Taffic/ビクタルビ等)は非常に安全ですが、体調によっては軽微な副作用が出ることがあります。主な症状は以下の通りです。

🤢
軽い吐き気
数%程度
🌀
頭痛・めまい
数%程度
🚽
軟便・下痢
まれ
💤
不眠・倦怠感
ごくまれ
👨‍⚕️ 院長からのアドバイス:副作用が出た場合

副作用の多くは「飲み始めの数日間」に集中し、体が薬に慣れるにつれて自然と消失します。

  • 吐き気がある時:空腹時を避け、食後に服用すると改善しやすいです(最新薬は食事の影響を受けません)。市販の胃薬や制吐剤を併用しても構いません。
  • 頭痛がある時:市販の鎮痛剤(ロキソニンやイブなど)を併用して問題ありません。
  • 自己判断で中止しない:最も避けるべきは「気持ち悪いから今日は休もう」と服薬を飛ばすことです。どうしても辛い場合は、中止する前に必ず当院へご相談ください。

6. 予防効果とエビデンス

PEPは科学的に効果が実証された予防法です。「本当にこれで防げるのか?」という不安に対し、過去の臨床データと最新の知見に基づいてお答えします。

感染リスク低減率(80~90%超)

適切なPEP実施による感染阻止率
81% 〜 90%
※CDC(米国疾病予防管理センター)の症例対照研究および近年の動物実験データに基づく推計

この「81%」という数字は、1990年代の古い薬(AZT単剤)を用いた研究データです。
現在当院で使用している3剤併用療法(Taffic/ビクタルビ等)の効果はこれより遥かに高く、適切なタイミングで開始し完遂した場合の理論的な阻止率は限りなく100%に近いと考えられています。

※医学に「絶対(100%)」はありませんが、実際に近年の先進国において、手順通りにPEPを行ったにもかかわらず感染してしまった(PEP failure)報告例は、世界的に見ても極めて稀です。

なぜ失敗するのか?(要因と対策)

薬の性能は十分に高いにもかかわらず、稀にPEPが失敗しHIV感染が成立してしまうケースがあります。その原因のほとんどは「薬の効果不足」ではなく、「人的要因」によるものです。

⚠️ PEP失敗の4大要因
1. 開始の遅れ
72時間を超えてから開始した場合、すでにウイルスがリザーバーを形成しており、薬の効果が間に合わないことがあります。
2. 服薬アドヒアランス不良
「飲み忘れ」や「途中で飲むのをやめた」ケースです。血中の薬物濃度が下がると、ウイルスは隙をついて増殖します。
3. PEP中の再暴露
PEP期間中にコンドームなしの性行為を行い、「新たなウイルス」をもらってしまうケースです。これでは予防が追いつきません。
4. 薬剤耐性ウイルス
相手のウイルスが元々薬に強い耐性を持っていた場合(※現在の3剤併用療法では極めて稀です)。

✅ 確実に成功させるための対策

  • スマホのアラームを活用する
    毎日「同じ時間」に飲むことが重要です。アラームをセットし、飲み忘れをゼロにしましょう。
  • PEP期間中は性行為を控える
    少なくともコンドームを完璧に使用してください。新たな感染リスクを避けることは、薬を飲むことと同じくらい重要です。
  • 体調変化があればすぐに相談
    副作用で「飲めない」と感じたら、自己判断で中止せず、すぐに当院へご連絡ください。吐き気止めの処方などでサポートします。

7. 日本における現状と海外の動向

PEPに関する環境は、国によって医療制度やガイドラインが異なります。ここでは日本国内の「費用・保険」の実情と、世界標準のHIV予防戦略との比較について解説します。

保険適用外(自費診療)の実情

日本の公的医療保険制度は、原則として「すでに起きた病気の治療」を対象としています。そのため、「まだ感染していない段階での予防投与」であるPEP(特にnPEP)は、保険適用の対象外となります。

性的接触・一般の事故
(nPEP)
全額自費
適用なし。100%自己負担となります。
※クリニックによって自由診療価格が異なります。先発品(ビクタルビ等)だと高額になりがちですが、当院のようにジェネリックを採用して費用を抑えている施設も増えています。
医療従事者の針刺し
(oPEP)
労災保険
業務上の災害としてカバーされる場合が多いです。
※ただし、医療機関の規定や労災認定のプロセスを経る必要があり、初期対応費用を一時立て替えるケースもあります。

🏥 専門医の視点:自費診療であることのメリット
一見デメリットに見えますが、自費診療(自由診療)であるため、「保険証の履歴に残らない(会社や家族に知られない)」「匿名での検査・受診が可能」というプライバシー保護の面ではメリットとなります。当院でもプライバシーに配慮し、迅速に薬をお渡しできる体制を整えています。

海外ガイドラインとの比較・今後の展望

WHO(世界保健機関)や米国CDCの最新ガイドラインでは、PEPを単発の緊急処置で終わらせず、その後の長期的な予防に繋げる動きが加速しています。

🌍 世界標準:PEP to PrEP(ペップ・トゥ・プレップ)

「今回PEPが必要になった」ということは、その方のライフスタイルにおいてHIV感染リスクが高い可能性があります。
海外では、PEPで緊急回避をした後、そのまま途切れさせずにPrEP(暴露前予防)へ移行することが推奨されています。

緊急対応
PEP (28日間)
継続予防
PrEP (29日目〜)

当院の取り組み:
モイストクリニックでもこの世界標準に準拠し、PEP終了時の検査で陰性を確認した後、希望される方にはスムーズにPrEP処方へ移行できるプログラムを提供しています。「二度と不安な思いをしない」ための予防策です。

🌐 アクセスの課題と展望
一部の国では、PEP薬を医師の処方箋なしで薬局で購入できる制度(薬剤師主導の提供)が始まっていますが、日本では現在も医師の診察と処方が必須です。
しかし、オンライン診療の普及により、地方在住の方でも郵送でPEP薬を入手できる環境は整いつつあります。当院でもオンライン診療を活用し、全国どこからでも72時間以内のアクセスが可能な体制を目指しています。