性行為後の予防・相談
「昨日の性行為、大丈夫だっただろうか」と後から不安になった場合でも、今から検討できる予防策があります。
性行為後、何を優先すればよいですか?
最初に行為の日時を確認し、妊娠と感染症の心配を分けます。以下に挙げる対策は全員に一律で必要なものではなく、該当する項目が複数ある場合は同時に相談できます。
| 心配なこと | 今できること・期限 |
|---|---|
| HIV感染 | PEPが必要か評価。必要ならできるだけ早く、72時間以内に開始。[1] |
| 妊娠 | 緊急避妊。国内レボノルゲストレル製剤は72時間以内に服用。過ぎてもすぐ産婦人科へ。[3][4] |
| 梅毒・クラミジアなど | Doxy-PEPを使う場合は72時間以内。効果の根拠や推奨対象に限りがあり、誰にでも一律には使いません。[2][5] |
| B型肝炎 | 接種歴・相手の感染状況を確認し、必要な予防を速やかに。72時間が一律の期限となるわけではありません。[6] |
| 感染したか知りたい | 検査の種類・部位と経過時間に合わせて計画。症状がある、相手の感染が分かった場合は今受診。[1][7] |
強い痛み、多量の出血、意識が遠のくなどの症状があるときは、予防薬の相談より救急受診を優先してください。
コンドームが破れたり外れたりした方は、残ったコンドームへの対処や緊急避妊後の確認も必要です。コンドームが破れたときの対処・妊娠の確認にまとめています。
「72時間以内」は、いつから数えますか?
感染や妊娠につながる可能性のある接触があった時刻から数えます。気づいた時刻や、翌日の朝からではありません。
たとえば月曜日の午後10時の接触から72時間後は、木曜日の午後10時です。「木曜日の終わりまで」という意味ではありません。予防薬は早く使うことが重要なので、計算した期限まで待つ予定は立てないでください。[1][3][5]
何時だったか曖昧な場合は「月曜日の夜、午後9時〜11時ごろ」のように幅を伝えて構いません。複数回の接触があれば、それぞれの日時を伝えます。最後の接触から72時間以内でも、それ以前の接触を同じ条件で予防できるとは限りません。

HIV PEPは、どんなときに検討しますか?
HIVを含む可能性のある血液や精液などが、粘膜や傷のある皮膚に触れた場合に検討します。相手の感染状況が不明だからといって、全員にPEPが必要なわけではありません。[1]
PEP(ペップ)は、接触後に抗HIV薬を使って感染リスクを下げる方法です。医師は、膣・肛門・口などの接触部位、コンドームの使用状況、出血、相手のHIV検査・治療状況、本人のPrEPの服用状況を合わせて判断します。相手の職業や見た目だけでは決められません。
必要と判断された場合は、できるだけ早く、遅くとも接触から72時間以内に開始し、通常28日間服用します。開始前の検査は必要ですが、結果が出るのを待つことだけを理由に開始を遅らせないことが推奨されています。[1]
効果と、服用後にも検査する理由
PEPは感染の可能性を下げるための対策で、感染を完全に防げる保証はありません。性行為後のPEPについて、服用しない群と直接比較した大規模試験から「今回の成功率」を算出することはできません。開始までの時間、服用の継続、新たな接触なども関係します。[1]
吐き気・下痢などの副作用や、薬によっては腎臓・肝臓への影響、飲み合わせへの注意があります。飲み続けにくいときは処方元に連絡し、自己判断で中断・増量しないでください。薬を飲み終えることと、感染がなかったことの確認は別なので、その後の検査まで予定を立てます。
妊娠も心配なら、感染予防と並行して対応できますか?
緊急避妊と感染症への対応は、並行して相談してください。HIV PEPやDoxy-PEPは妊娠を防ぐ薬ではなく、アフターピルも性感染症を防ぎません。
避妊をせずに膣性交をした場合やコンドームが破れた場合など、妊娠の可能性がありそれを避けたいときには緊急避妊を検討します。国内のレボノルゲストレル製剤は性交から72時間以内のできるだけ早い服用が基本です。[3]
72時間を過ぎた場合も、すぐに産婦人科へ相談してください。国際的には120時間以内に検討される方法もありますが、薬や銅付加IUDなどで適応・入手先が異なり、どの医療機関でも受けられるわけではありません。[4]
医療機関のほか、処方箋なしで緊急避妊薬を購入できる取り扱い薬局もあります。来店前に在庫と対応薬剤師の在席を確認してください。緊急避妊薬を販売する薬局の一覧(厚生労働省)
服用後にも妊娠の確認が必要です。詳しい入手条件や妊娠検査の時期は、コンドーム破損時の緊急避妊・その後の確認をご覧ください。
Doxy-PEPで、性病をまとめて防げますか?
Doxy-PEP(ドキシペップ)は、性行為後に抗菌薬のドキシサイクリンを服用する方法です。国内では予防目的の使用は承認された効能・効果の範囲外です。感染がすでに成立している場合の治療とは、用量や期間が異なります。[8][9]
研究で分かっていることと、まだ分からないこと
有効性の根拠は、男性と性行為をする男性(MSM)やトランスジェンダー女性を対象とした研究が中心です。WHOの2026年指針も、この集団への提供を条件付きで推奨し、最近の感染歴や繰り返す感染などがある人を優先しています。[2]
梅毒・クラミジアの感染減少が示されている一方、淋菌は耐性菌の状況によって効果が異なります。「飲めばどの性病も何%防げる」と全員に共通する数字では説明できません。[2][5]
シスジェンダー女性449人を対象とした試験では、細菌性性感染症全体の有意な減少は確認されませんでした。服薬実行率の低さなどが結果に影響した可能性があり、「女性には効果がないと証明された」とも言い切れません。対象集団によって根拠の確かさが違います。[10]
当院では性別・属性だけで一律に対象外とはせず、感染リスク、既往歴、妊娠の可能性、服薬状況を確認して医師が判断します。当院での処方方針と、国際的な推奨対象や有効性の根拠については、区別して説明します。
処方された場合の飲み方と注意
一般的な用法は、性行為後できるだけ早く、遅くとも72時間以内にドキシサイクリン200mgを1回服用する方法です。24時間以内に200mgを超えて服用しません。過去にもらった抗菌薬や他人の薬で代用せず、処方時の指示に従ってください。[5][8]
- 食道への刺激:十分な水で飲み、服用後1時間は横にならないようにします。
- 飲み合わせ:鉄・カルシウム・マグネシウムなどを含むサプリメント、制酸薬、乳製品などとは服用間隔をあけます。具体的な服用時刻については医師や薬剤師に確認してください。
- 副作用:胃腸症状や日光への過敏反応などがあります。また、妊娠の可能性、授乳中であること、薬のアレルギーも服用前に伝えます。
- 耐性菌:薬が効きにくい菌を増やす可能性があり、継続の必要性と検査の予定を定期的に見直します。
これらは主な注意で、すべての相互作用・副作用を列挙したものではありません。[5][9] 当院では開始時の性感染症検査と、継続中は3か月ごとの検査を推奨しています。予防薬を飲んでいても、症状や相手の感染が分かった場合は別途診察が必要です。
B型肝炎の予防も、72時間が期限ですか?
B型肝炎の接触後予防を、一律に72時間で締め切るのは適切ではありません。必要な場合はできるだけ早く評価を受けますが、過ぎたからと自己判断で諦めないでください。[6]
医師が確認するのは、相手のHBs抗原(感染を判断する検査)の結果、本人のワクチン接種歴、接種後の抗体の記録などです。未接種で相手の感染が確認されている場合は、ワクチンに加えてB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)が検討されます。相手の感染状況が不明な場合や接種済みの場合は、同じ対応になるとは限りません。[6]
HBIGは抗体を補う薬で、ワクチンとは役割が異なります。米国CDCは必要な予防をできれば24時間以内に始めるとし、性行為後の有効な期間は14日を超えないと考えられるとしています。ただし、上限の根拠は限られ、14日まで待ってよいという意味ではありません。日本での処置は製剤や状況に応じて医師が判断します。[6]
受診先には「B型肝炎への接触後の相談」と伝え、ワクチンやHBIGの対応が可能かどうかを電話で確認してください。この記事は、当院でそれらの処置を受けられることを保証するものではありません。
シャワーや排尿で、感染を防げますか?
性行為後にシャワーを浴びたり排尿したりすることは、性感染症や妊娠を防ぐ方法の代わりにはなりません。
特に、膣の中を洗う、消毒液を入れる、皮膚や粘膜を強くこする方法は避けてください。体液を落としたつもりでも、予防薬や必要な診察が不要になるわけではありません。[11]
余っている抗菌薬を飲むことも勧められません。薬によって対象の感染症や用法が違い、症状や検査結果の判断にも影響します。すでに飲んだ場合は、薬品名・服用量・服用時刻を伝えてください。
性病検査は、今すぐ受けても意味がありますか?
感染してから検査で分かるまでの時間差を「ウインドウ期」といいます。予防が必要な人が、検査に適した日まで何もせず待つための期間ではありません。
| 調べるもの | 時期・部位の考え方 |
|---|---|
| HIV | 検査法によって検出できる時期が異なります。静脈採血による第4世代検査では、通常18〜45日が検出可能になる期間の目安です。PEP・PrEPの使用時はこの目安をそのまま適用せず、別の計画を立てます。[1][7] |
| 梅毒 | 早期には血液検査が陰性のことがあります。状況により4〜6週・3か月などの再検査を計画します。相手が陽性の場合や潰瘍などがある場合は検査日を待ちません。[12] |
| 淋菌・クラミジア | 性器だけでなく、接触に応じてのど・直腸も検討します。直後の検査が陰性で治療を受けていない場合などは、1〜2週後の再検査について相談します。[12] |
| B型肝炎等 | ワクチンの接種歴やこれまでの検査結果、接触内容に応じて、初回検査と再検査を決めます。すべてをHIVと同じ日程にそろえるとは限りません。[1][6] |
上の期間は検査計画を相談するための目安です。梅毒・淋菌・クラミジアの再検査例は、CDCの性暴力後の診療指針に記載された、初回検査が陰性・未治療などの場合を参考にしています。すべての接触・検査製品に共通する日程ではなく、今回の状況に合わせて医師と決めます。[12]
症状や相手の感染が分かったら、予定日を待たない
排尿時の痛み、膿、おりものの変化、性器の潰瘍・できものなどがあれば受診してください。感染症以外の原因のこともあり、症状だけで診断できません。相手から「梅毒だった」などと連絡が来た場合も、検査や治療の必要性を早めに相談します。
検査が済むまでは性行為を控えるか、コンドームなどを用いて新たな感染機会を減らします。症状がある場合や感染が判明した場合の再開時期については、診断と治療に応じた指示を受けてください。
72時間を過ぎたら、できることはありませんか?
72時間を過ぎても、診察・検査・その後の予防につなげられます。「すべて手遅れ」「感染したことが確定した」のどちらでもありません。
- HIV PEP
- 通常、72時間を超えての開始は推奨されません。時刻が曖昧、複数回の接触があった場合も含めて医師に伝え、検査と今後の予防計画を立てます。手元のPrEP薬で今回のPEPを自己流に代用しないでください。[1]
同じ不安を繰り返している場合には、今回の確認を終えるまでの計画と、次の接触に備える方法を一緒に考えます。HIVのPrEPは接触前からの予防です。HPVやA型・B型肝炎のワクチンも対象に応じて検討できますが、HPVワクチンは今回の感染を治す薬ではなく、72時間以内に打つ緊急処置でもありません。[1][13]
何科に行けばよい?相談では何を伝えますか?
感染症内科・性感染症を扱う医療機関などへ、HIV PEPや接触後の予防に対応するか確認します。診療科名だけでは薬の取り扱いは分かりません。緊急避妊は産婦人科や取り扱い薬局、B型肝炎は必要な処置に対応できる医療機関へつながることが大切です。
- いつ、どんな接触があったか:日時、膣・肛門・口などの接触、コンドーム、射精・出血の有無。
- 今分かっていること:本人の症状、相手から聞いた検査・治療の情報。分からない項目は不明と伝えて構いません。
- 薬・持病・予防の記録:PrEP・ピルを含む薬とサプリ、アレルギー、妊娠の可能性、B型肝炎ワクチンや検査の記録。
情報をすべて集め終えてから連絡する必要はありません。不安で眠れない、調べ続けて生活に支障が出ていることも伝えられます。不安の強さだけで予防薬が必要と決まるわけではなく、接触内容の評価と心身のケアを分けて相談します。
モイストクリニックでPEPを相談する場合
当院への相談では「PEP希望」と接触した日時をお伝えください。来院・オンライン診療に対応していますが、必要な診察や採血によって来院をご案内する場合があります。
自由診療です。PEP薬28日分・診察料・処方料を含みます。採血、追加の性感染症検査、配送料は別料金です。採血付きプランもあり、内容と総額は実施前にご案内します。検査の必要性は料金プランとは別に判断します。
主なリスクは吐き気・下痢、腎機能・肝機能への影響などです。当院の採用薬Tafficは国内未承認で、海外製品を輸入しています。
電話対応9:00〜22:00。対面診療14:00〜22:00。Web・LINEは24時間受付ですが、即時の診察・返信を保証するものではありません。
- 国内の承認状況
- 同じ3成分を含む国内承認品ビクタルビも、PEP目的は承認適応外です。
- 海外の承認状況
- Tafficは製造元によりインドでHIV-1治療薬として承認されたと案内されていますが、PEPの効果・安全性を保証するものではありません。[16]
- 副作用被害救済制度
- 国内未承認薬による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。[15]
オンラインで処方された場合、通常配送は700円(税込)、対象地域のタイムサービス便は1,900円(税込)です。都内の至急配送ではバイク便を個別に検討し、料金を事前に案内します。17時までの受付・決済完了は当日発送処理の基準で、到着時刻や72時間以内の服用開始は保証されません。間に合わない場合は、来院や近隣の対応医療機関を優先してください。
性行為後の予防で、よくある質問
翌朝に違和感があれば、昨日の性行為が原因ですか?
時期だけでは判断できません。刺激による症状や以前の感染なども考えられます。症状の始まった時刻と最近の接触歴を伝え、強い症状は受診を急いでください。「早すぎるから性病ではない」「症状がないから感染していない」とは決められません。
相手に連絡できなくても、相談できますか?
できます。相手の検査・治療情報は判断材料ですが、分からない場合は不明として評価します。相手からの返事を待って、必要な予防の開始を遅らせないでください。[1]
HIV PEPとDoxy-PEPは、両方飲むこともありますか?
予防する対象が違うため、両方を検討する場合はあります。ただし、それぞれの必要性・持病・薬やサプリとの飲み合わせを医師が確認します。片方を多く飲んで、もう片方の代わりにはできません。
医師紹介
金谷 正樹
モイストクリニック 院長
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療。日本性感染症学会会員。
医学監修:金谷正樹 医師|医学確認日:2026年9月15日
参考資料
情報確認日:2026年9月15日。海外の指針・試験と、国内の承認・当院の提供条件を区別しています。
- CDC:非職業的曝露後のHIV予防指針2025 2025年5月8日。適応、開始、28日間、検査・PrEP移行。
- WHO:Doxy-PEPガイドライン2026 2026年7月14日。推奨対象・条件付き推奨。本文は推奨章と実施上の留意点を確認。
- PMDA:ノルレボ錠1.5mg 電子添文 国内の用法・用量。
- WHO:Emergency contraception 緊急避妊の選択肢。国内承認や当院の取扱いを示す資料ではありません。
- CDC:Doxy-PEP臨床指針2024 2024年6月6日。対象・用量・副作用・耐性と検査。
- CDC:B型肝炎の接触後予防(Table 7) 2021年7月22日確認版。相手の感染状況・接種歴による違い。米国指針の期間を国内製剤の用法と同一視していません。
- CDC:Getting Tested for HIV 2025年2月11日。検査法によるウインドウ期の違い。
- 日本におけるDoxy-PEPの手引き 第1版(案) 2024年11月1日。案であることと、対象・根拠の限界を区別。
- PMDA:ビブラマイシン錠 電子添文 効能・用法、相互作用、妊娠・授乳時の注意、副作用。
- Stewartら:女性におけるDoxy-PEPの無作為化試験 N Engl J Med. 2023。449人、全体の有意な減少なし。服薬状況等の限界。
- NHS:性行為後に相談が必要な場合 緊急避妊・性感染症・膣洗浄について。英国の入手制度は転用していません。
- CDC:性暴力後の性感染症の診察・フォロー 梅毒・淋菌・クラミジア等の再検査例。対象・初回検査・治療の有無で異なります。
- CDC:性感染症の予防法 コンドーム・接触前のHPV/A型/B型肝炎ワクチン。
- 内閣府:性犯罪・性暴力被害者への支援 ワンストップ支援センター #8891。
- PMDA:医薬品副作用被害救済制度の給付対象 未承認薬等の制度上の扱い。
- Hetero:TAFFIC製品発表 2019年。製造元のインドHIV-1治療承認の案内。PEP承認や国内承認の根拠ではありません。
