監修:金谷正樹 医師|医学確認日:2026年9月27日
性器ヘルペスにかかったことがあっても、妊娠・出産をあきらめる必要はありません。大切なのは、以前からの再発なのか、出産に近い時期に初めて感染したのかを分けて考え、産婦人科で出産までの方針を相談することです。
- 再発歴があるだけで、必ず帝王切開になるわけではありません。
- 出産直前の初感染や、分娩時の性器の病変・前兆には注意が必要です。
- 妊娠中・授乳中でも、医師が必要性を判断して使える抗ウイルス薬があります。
妊娠中に性器の水ぶくれ・ただれ・ピリピリ感が出たら、次の妊婦健診を待たずに、かかりつけの産婦人科へ連絡してください。 出産方法や赤ちゃんの管理は、分娩を担当する医療機関で判断します。[1][2]
妊娠中にヘルペスを疑ったら、どうすればよいですか?
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)が皮膚や粘膜に感染して起こります。外陰部や肛門の周りに痛みを伴う水ぶくれ・ただれができ、最初の症状としてヒリヒリ感や違和感だけが出ることもあります。初めて強く発症すると、発熱や排尿時の強い痛みを伴う場合があります。[2]
尿が出ない、強い痛みや発熱でぐったりしている場合は、当日中に医療機関へ連絡してください。 破水した可能性や陣痛があるときは、ヘルペスの症状・既往も伝え、分娩予定の病院へすぐに連絡します。残っている薬で様子を見るのではなく、妊娠中に適した治療を相談しましょう。

赤ちゃんへの影響は、初感染と再発で違いますか?
赤ちゃんへうつるのは、どのタイミングですか?
主に問題になるのは、出産時に赤ちゃんが産道のウイルスに接触することです。子宮内で感染する例はまれですが、産後に口唇ヘルペスなどの病変へ触れて感染することもあります。対策を考えるときは、妊娠中・出産時・産後を分けると整理しやすくなります。[2][3]
- 妊娠中症状・既往を産科へ伝え、治療と新たな感染の予防を相談
- 出産時病変・前兆と感染した時期を踏まえ、分娩方法を判断
- 産後・授乳中病変への接触を避け、乳房の症状と赤ちゃんの体調を確認
初感染と再発で、感染率はどのくらい違いますか?
米国CDCは、母親の感染状況別に、赤ちゃんへ感染するリスクを次のように示しています。[1]
| 母親の感染状況 | 赤ちゃんへの感染リスク |
|---|---|
| 出産に近い時期に新たに性器ヘルペスへ感染した場合 | 30〜50% |
| 再発性の性器ヘルペスの既往がある場合、または妊娠前半に感染した場合 | 1%未満 |
これは海外の研究を踏まえた目安で、妊娠中にヘルペスが出たすべての方に30〜50%のリスクがある、という意味ではありません。 分娩時の病変、感染した時期、治療や出産方法などによって個別の判断が必要です。
以前から感染している場合は、母親の抗体が胎盤を通して赤ちゃんに届くことなどが、リスクの違いに関係します。一方、出産直前の初感染では、抗体が十分にできて赤ちゃんへ移るまでの時間が短くなります。[1][2]
なお、「今回初めて症状に気づいた」ことと「今回初めて感染した」ことは同じではありません。 以前の感染が気づかれず、妊娠中に初めて症状として現れる場合もあります。自己判断で初感染・再発を決めず、診察と必要な検査で評価します。[2]
妊娠初期の再発や、胎児の発育への影響は?
妊娠前からの性器ヘルペスが再発しただけで、赤ちゃんの発育に問題が起きると考える必要はありません。妊娠の早い時期に初めて発症した場合も、出産直前の新たな感染と同じリスクではありません。[2]
ただし、子宮内感染や母体の重症化はまれに起こります。「胎内には絶対にうつらない」とは言い切れないため、発熱が続く、全身状態が悪いなどのときは早めの診療が必要です。赤ちゃんが出生前後に感染して発症する「新生児ヘルペス」には、皮膚・目・口に症状が出る型のほか、脳や全身に広がる重い型があり、小児科での早期対応が重要になります。[1][3]
妊娠後半は、パートナーから新たに感染しないための対策も大切です。妊娠中の性行為・パートナーとの注意点を確認してください。
性器ヘルペスがあると、帝王切開になりますか?
| 出産前後の状況 | 出産方法を考えるときのポイント |
|---|---|
| 再発歴はあるが、分娩時に病変・前兆がない | 経腟分娩が可能な場合があります。直近の発症時期や、ほかの産科的な条件も確認します。 |
| 分娩時に性器の水ぶくれ・潰瘍がある、または強く疑われる | 赤ちゃんの病変への接触を避けるため、帝王切開を検討する状況です。ピリピリ感・痛みなどの前兆も伝えます。 |
| 出産に近い時期に初めて感染・発症した | 見た目が治っていてもウイルスの排出が続く可能性があり、帝王切開を含めた方針を相談します。 |
出産直前に初めて発症した場合は、病変が治っていても産科への共有が必要です。 発症から何日たったかだけでは判断できません。初感染か再発か、分娩時の症状、妊娠週数などを合わせて、出産方法を相談します。[1][2][4]
帝王切開は感染リスクを減らすための方法ですが、すべての感染を防げる保証ではありません。また、国やガイドラインによって再発時の分娩方針には違いがあります。海外の説明だけで出産方法を決めず、担当する産科で最新の診療方針とご自身の状況を確認しましょう。[1][2]
予定の帝王切開より前に破水・陣痛が始まった場合は、その時点で病院へ連絡してください。 妊娠週数、破水からの経過、病変などを踏まえて、産科が対応を判断します。
妊娠中でもヘルペスの薬は使えますか?
薬はウイルスの増殖を抑え、症状の改善を助けます。初発か再発か、症状の強さなどで治療方法は変わり、重症の場合には入院や点滴が必要になることもあります。「妊娠初期だから必ず塗り薬だけ」と一律に決めるものではありません。[1]
赤ちゃんへの薬の影響は、どのくらい調べられていますか?
デンマークの出生データを用いた研究では、妊娠初期にアシクロビル・バラシクロビル・ファムシクロビルのいずれかを使用した1,804妊娠で、赤ちゃんの主要な先天異常は2.2%、使用していない群では2.4%でした。アシクロビルとバラシクロビルを個別に調べても、主要な先天異常のリスク上昇との関連は認められませんでした。[5]
ただし、これは観察研究で、薬ごとの使用例数にも差があります。あらゆる影響がゼロと証明されたわけではなく、ファムシクロビルは使用例が少ないため、同じ確かさで評価できません。薬の不安から治療を我慢するのではなく、現在の症状を治療するメリットも含めて相談しましょう。
妊娠に気づく前に服用していた場合は、薬の名前・量・服用日を伝えてください。再発時にすぐ飲めるよう事前に処方された薬(PIT療法)も、妊娠中にそのまま使ってよいか、処方医へ確認が必要です。
出産前の再発抑制療法は、いつから行いますか?
米国CDCは、再発性の性器ヘルペスがある妊婦に対し、妊娠36週からの抑制療法を示しています。一方、英国の2024年版ガイドラインに基づくRCOGの患者向け資料では、既往がある方への開始時期を原則32週からとしています。早産のリスクなどによっても対応が異なるため、「世界共通で36週から全員が飲む」という治療ではありません。[1][2]
再発や帝王切開を減らす効果はありますか?
性器ヘルペスの既往がある妊婦を対象とした無作為化比較試験では、36週からバラシクロビルを服用した群と、プラセボ(有効成分を含まない薬)を服用した群を比べています。分娩時のヘルペス再発によって帝王切開が必要だった割合は、バラシクロビル群4%、プラセボ群13%でした。[6]
この数字は、ヘルペスを理由とする帝王切開の割合です。すべての理由による帝王切開や、赤ちゃんへの感染率を示したものではありません。この試験では新生児ヘルペスは両群とも発生せず、感染予防の効果までは評価できませんでした。複数の試験をまとめたレビューでも、新生児ヘルペスをどの程度減らせるかは明らかにできていません。[6][7]
薬を服用中でも、分娩時の診察は必要です。 再発やウイルスの排出が完全になくなるわけではないため、出産前のピリピリ感や新しい病変は、その都度伝えてください。妊娠していない方の長期的な再発抑制療法とは、目的や用法が異なることがあります。[1]
授乳中にヘルペスが出たら、母乳はやめるべきですか?
| 病変がある場所 | 授乳・搾乳の対応 |
|---|---|
| 性器・お尻など、乳房以外 | 病変をしっかり覆い、手洗いを行い、赤ちゃんが触れないようにすれば授乳を続けられます。 |
| 乳首・乳輪など、乳房 | 治るまで、その側からの直接授乳を中止します。患側から搾乳した母乳も与えず、廃棄します。 再開時期は医師に確認します。 |
| 片側の乳房に病変があり、反対側にはない | 病変を十分に覆い、赤ちゃんや搾乳器が触れないようにして、病変のない側から授乳できます。 |
乳房の病変がある場合は、搾乳のときに母乳が病変へ触れて汚染される可能性があります。「直接飲ませずに搾乳すれば、患側の母乳も与えられる」というわけではありません。 搾乳器は適切に洗浄し、授乳・搾乳前と患部に触れた後は手を洗ってください。[3]
バラシクロビルを飲みながら、授乳できますか?
国立成育医療研究センターは、アシクロビルとバラシクロビルを、授乳期にも使用できると考えられる薬として掲載しています。服薬と授乳を両立できる場合があるので、自己判断で治療を中断したり、断乳したりする前に相談してください。[8]
母乳への薬の移行が全くないという意味ではありません。実際の薬剤・投与量と、赤ちゃんの月齢や健康状態などを踏まえて判断します。乳房の病変による接触の問題と、母乳を通した薬の影響は分けて考えます。
口唇ヘルペスがある家族は、何に注意すればよいですか?
口唇ヘルペスの症状がある間は、赤ちゃんへのキスを控え、病変を触った手で赤ちゃんに触れないようにします。授乳する方だけでなく、パートナーやほかの家族も手洗いを心がけてください。[2]
生後間もない赤ちゃんに発熱、飲みが悪い、反応が鈍い、水ぶくれなどがあるときは、すぐに小児科・救急へ連絡してください。 水ぶくれがなくても、いつもと違って具合が悪い場合は受診が必要です。周囲の人にヘルペスの症状があったことも伝えます。[2]
妊活中や、パートナーにヘルペスがある場合の注意点は?
妊娠後半に新たな性器感染を起こさないことが重要です。症状や前兆があるときは性行為を控え、症状がない時期でも、コンドームだけでは感染を完全に防げないことを知っておきましょう。[1]
自分に性器ヘルペスの既往がなく、相手に性器ヘルペスがある・疑われる場合、CDCは妊娠後期の腟性交を避けるよう勧めています。また、自分に口唇ヘルペスの既往がない場合は、口唇ヘルペスの既往がある・疑われる相手から性器に口で触れてもらう行為も、妊娠後期は控えるよう勧められています。相手の口唇ヘルペスが、オーラルセックスを通して性器に感染する場合があるためです。[1]
パートナーの抗ウイルス薬によって妊婦への感染を確実に防げるとはいえません。症状が出たことがなくても感染している場合があるため、必要に応じて検査の目的や限界も含めて相談してください。
当院では、どこまで相談できますか?
モイストクリニックでは、性器ヘルペスの診察、必要に応じた検査、治療薬について相談できます。妊娠中・授乳中であることを予約・診察時にお伝えください。診療方法や処方の可否、対面診療・専門医療機関への紹介の必要性は、医師が判断します。
病変がある場合にはぬぐい液によるPCR検査、状況に応じてgG型特異的抗体検査を検討します。ただし、抗体検査だけで感染した日や「今、産道にウイルスがいるか」を特定することはできません。 分娩前の検査や赤ちゃんの管理は、産科の診療方針に沿って進めます。
当院では分娩管理や胎児の評価を行っていません。妊娠中に症状が出た場合は、当院への相談とあわせて、かかりつけの産婦人科へ必ず連絡してください。 診断結果や処方内容を共有し、出産までの方針を確認することが大切です。
性器ヘルペスの診療・費用・受診方法 / PCR・gG抗体検査で分かること
よくある質問
妊娠中に初めて発症したら、最近うつされたということですか?
そうとは限りません。HSVは感染後に症状が出ないまま潜伏し、後になって初めて症状に気づく場合があります。症状の出た時期だけで感染相手や感染日を決めることはできません。出産の安全性を考えるうえでは、過去の症状・検査・治療歴をできるだけ正確に伝えることが役立ちます。[1][2]
症状が治ったら、産婦人科に伝えなくてもよいですか?
治っていても伝えてください。出産に近い時期の発症は、見た目の改善後も出産方法の判断に関係します。昔かかったことがある場合も、妊婦健診のときに共有しておくと、再発したときの対応を相談できます。
出産後に再発しやすい場合、治療を相談できますか?
はい。授乳状況や再発の頻度、症状の負担を踏まえて治療を相談できます。毎回の再発を治療する方法と、継続して再発を抑える方法は別なので、自己判断で妊娠前の薬に戻さず、医師と確認してください。再発を繰り返すときの治療と備えも解説しています。
監修医師

モイストクリニック院長 金谷 正樹 医師
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現 東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療を行っています。日本性感染症学会の会員として活動しています。細菌学と免疫学の知識を活かし、患者さんご本人とパートナーを含めた診療を大切にしています。
参考資料
- CDC:Genital Herpes — STI Treatment Guidelines(妊娠・新生児、検査、予防)
- RCOG:Genital herpes and pregnancy(2025年12月、英国2024年版ガイドラインに基づく患者向け資料)
- CDC:Herpes Simplex Virus and Breastfeeding
- BASHH・RCOG:妊娠中・新生児のHSV管理に関する英国合同ガイドライン(2024年版)
- Pasternak B, Hviid A. 妊娠初期の抗ウイルス薬と主要な先天異常の全国コホート研究. JAMA. 2010;304:859–866.
- Sheffield JS, et al. 妊娠36週からのバラシクロビル投与の無作為化比較試験. Obstet Gynecol. 2006;108:141–147.
- Hollier LM, Wendel GD. 妊娠後期の抗ウイルス薬による再発・新生児感染予防の系統的レビュー. Cochrane Database Syst Rev. 2008;CD004946.
- 国立成育医療研究センター:授乳中に安全に使用できると考えられる薬(2025年8月改訂)
