HIV PEP / 服用中の対処と生活
薬を手にして、少しほっとした。けれど今度は、「飲み忘れたら?」「仕事中に気持ち悪くなったら?」——28日間をどう過ごすか、気になることもあると思います。
PEPの飲み忘れに気づいたら、まず処方時の指示を確認してください。一般には気づいた時に1回分を飲み、次の服用時刻が近ければ忘れた分を飛ばします。2回分をまとめて飲まないでください。何時間を「近い」とするかや、何回も忘れた場合の対応は、処方薬と経過で異なります。[2][3]
一度の飲み忘れや時刻のずれだけで、予防が失敗したと決めつけることはできません。大切なのは、起きたことを確かめ、必要な対応につなげることです。このページでは、すでにPEPを服用している方の疑問に答えます。
PEPを飲み忘れた。今、何をすればよい?
薬の袋・説明書・処方時のメモを見て、薬名と飲み忘れ時の指示を確認します。「いつもの予定時刻からの遅れ」と「最後に実際に飲んでからの時間」は別です。相談するときは、両方を伝えると状況が正確に伝わります。
1回の飲み忘れに気づいたとき
国内のビクタルビ患者向医薬品ガイドでは、気づいたときに1回分を服用し、次の服用時刻が近ければ1回飛ばすとされています。いずれも忘れた分を補うために2回分を一度に飲まないことが基本です。[2]
ただし、PEPは薬の商品名ではなく、抗HIV薬を使う予防法の名称です。すべての人が同じ薬を飲むわけではありません。タフィックや複数の薬を組み合わせた処方では、手元の薬に対して受けた指示を使います。「次の時刻に近いか分からない」「説明書がない」場合は、その場で処方元・薬剤師へ連絡し、判断を確認してください。
丸1日以上空いた・何回も忘れたとき
複数回の飲み忘れや中断は、単発の遅れと同じ扱いにしません。最後の服用からの時間、忘れた回数、薬の種類、追加の接触の有無を合わせて判断するため、分かった時点で処方元へ連絡します。「もう失敗だからやめる」「余った分だけ延長する」「最初から28日やり直す」と自己判断しないでください。海外指針でも、中断時の判断には薬の性質と経過時間が関係し、根拠には限界があると説明されています。[3]
処方元につながらない場合は、案内された時間外の連絡先も確認します。中断が続いている、次の服用時刻が迫っている場合は、そのことを伝え、近隣でPEPの診療を行う医療機関にも電話で相談してください。中断した長さによって対応が変わるため、自己判断で再開・中止を決めず、その時点で次の服用について指示を受けることが必要です。
飲んだか分からない・2回飲んだかもしれないとき
服用記録、包装の残り、残錠を確認します。ただし、残錠だけでは確実に分からないこともあります。念のためと追加したり、次回分まで自分で調整したりせず、薬名・量・時刻を伝えて指示を受けます。多く飲んだと分かった場合は、症状がなくても速やかに医師・薬剤師へ連絡し、異常があれば受診してください。[2][4]
服用時刻がずれたら、効果はなくなる?
少し遅れたことだけで、感染した・効果がなくなったとは判断できません。毎日続けることは重要ですが、「何時間までなら全員大丈夫」という共通の線引きもできません。
PEPは、HIVに感染する可能性がある接触のあと、抗HIV薬を通常28日間服用する予防法です。薬を続けることと、開始までの時間、接触の状況などが関係します。「1分でもずれると防御が切れる」という仕組みではなく、決めた服用計画を続け、ずれたときに適切に対応することを目指します。[1][3]
毎日同じ時間にするのは、服用間隔を整え、飲み忘れを減らすためです。残業・夜勤・旅行などで時刻を変えたい場合は、前回と次回の間隔を含めて処方元と調整しましょう。感染を防げたかは、服用時刻だけではなく、その後の検査で確認します。

飲み忘れを減らす、続けやすい工夫
- アラームと服用後の記録をセットにする。通知を止めただけでは、飲んだ記録になりません。飲んだ直後にチェックを付けます。
- 毎日の動作と組み合わせる。歯磨きなど、自分の生活で時刻が安定した動作を選びます。食事との関係は処方薬の指示に合わせます。
- 外出前に薬と残日数を確認する。急な外泊に備える場合も、薬の保管方法を守ります。裸の錠剤を財布へ入れたり、すべてをピルケースへ移したりせず、携帯方法を薬剤師に確認してください。
- 通知の見え方を調整する。ロック画面に薬名を表示したくないときは、自分に分かる短い合図にします。
夜間・休日につながらないときの飲み忘れ・嘔吐への対応と、時間外の連絡先も、処方時や次に連絡が取れたときに確認しておくと安心です。口頭の指示はメモに残し、薬の説明書と一緒に保管します。
飲み忘れが続くときは、意志の強さだけの問題にしないでください。勤務時間、吐き気、眠気、薬の保管場所など、続けにくい理由を伝えることが対策につながります。
PEPを飲んだあとに吐いたら、飲み直す?
飲んだ時刻・吐いた時刻・薬名を確認し、処方時の嘔吐の指示に従います。指示がない、分からない場合は、追加で飲む前に処方元へすぐ連絡してください。
吐いたあとにどの程度の薬が吸収されたかは、見た目だけでは分かりません。薬によっては、飲んでから吐くまでの時間に応じた指示が製品説明書にあります。英国のビクタルビの説明を、当院で使用するタフィックの指示として使うことはできません。成分名が同じでも、手元の製品と処方時の指示に合わせて、飲み直しの要否を確認します。[4]
- 一度吐いたが、水分は取れる
- 飲んだ時刻と吐いた時刻、吐いた回数を記録します。飲み直しの要否を確認し、水分は少量ずつ取ります。
- 吐き気・嘔吐を繰り返す
- 薬を保てない状態が続くため、当日中に医療機関へ相談します。吐き気止めや薬の変更などを医師が検討します。吐くたびに追加服用しないでください。
- 水分が取れない・尿が少ない・ぐったりする
- 脱水などの評価が必要です。速やかに受診し、意識がおかしい・倒れるなど強い症状は119です。
嘔吐のあとの指示で薬を追加して残りが足りなくなった場合も、終了日を自分で早めず、必要な残薬数を処方元に確認します。
副作用がつらいとき、どこまで様子を見てよい?
PEPに使う薬では、吐き気・下痢・頭痛・めまい・だるさなどが起こることがあります。ただし、症状だけで薬の副作用と決めつけることはできません。生活への影響、水分が取れるか、悪化しているかを確認します。[5]
| 症状・状態 | 対応の目安 |
|---|---|
| 軽い吐き気・軟便・頭痛 | 水分と休息を取り、症状の出る時間を記録。続く・仕事に支障がある場合は、我慢せず処方元へ相談。 |
| めまい・ふらつき | 運転や危険な機械作業を避ける。強い・繰り返す場合は受診について相談。 |
| 水分が取れない、尿が明らかに減る、黄疸、強い腹痛、広がる発疹 | 速やかに受診。夜間も翌朝やLINE返信を待たず、医療機関へ連絡。 |
| 息苦しい、顔・唇・喉の腫れ、意識が遠のく | 救急受診。強い症状は119。次の服用まで待たない。 |
黄疸は白目や皮膚が黄色く見える状態です。ここにない症状でも、急激な悪化や強い症状があれば受診してください。
「飲みきるために我慢する」必要はありません
症状に合わせ、飲み方の調整や症状を和らげる薬、PEPの薬の変更を検討できる場合があります。一方、重い症状があるのに「中断してはいけない」と飲み続けることも避けます。受診を優先し、継続・中止の可否を医師に判断してもらってください。
軽い不調でも「数日すれば必ず慣れる」とは限りません。いつから、どの程度、食事や仕事にどんな影響があるかを伝えると、継続のための対策を選びやすくなります。
発熱・のどの痛み・発疹は、PEPの失敗のサイン?
これらは副作用、別の感染症、急性HIV感染など、さまざまな原因で起こり得ます。症状の有無だけでは、感染も予防の成否も判断できません。PEP服用中・終了後に発熱や発疹などが出たら、予定の検査日まで待たず、処方元へ相談してください。[6]
胃薬・痛み止め・サプリを一緒に飲んでもよい?
「市販薬だから大丈夫」「2時間あければ全部大丈夫」とは言えません。商品名と成分欄を確認し、使う前にPEPの薬名を医師・薬剤師へ伝えてください。
PEPで使われる一部の成分は、胃薬やサプリに含まれるミネラルと結びつき、吸収が低下することがあります。飲む順序や食事の有無が関係するため、単に前後の間隔だけでは判断できません。[5]
| 手元の製品 | 確認すること |
|---|---|
| 胃薬・制酸薬 | マグネシウム・アルミニウムなどの成分。胃薬でも成分によって扱いが異なります。 |
| 鉄・カルシウム・亜鉛などのサプリ、ミネラル入りプロテイン | 含まれる成分と量、服用時刻、食事の有無。「サプリ」「プロテイン」という分類だけで可否を決めません。 |
| 痛み止め・風邪薬 | 成分の重複、腎機能など。ロキソニン等を含め、一律に併用可能とは案内できません。 |
| 普段の処方薬・ハーブ製品 | 併用できない薬・食品もあります。時間をずらすだけでは解決しない組合せがあります。 |
たとえば国内のビクタルビ添付文書では、マグネシウム・アルミニウムを含む制酸薬と、鉄・カルシウム製剤とで案内が異なります。これは製品に応じた確認が必要な理由であり、ほかのPEP薬へそのまま当てはめる指示ではありません。普段の治療薬を勝手に中止することも避けましょう。
すでに一緒に飲んだ場合は、製品名・成分・飲んだ時刻と量を記録し、処方元へ連絡します。効かなかったかもしれないと考えて、PEPを追加服用しないでください。写真を用意するなら、商品名と成分欄が読める2枚が役立ちます。
PEP服用中は、お酒や性行為をどうする?
お酒:飲んだからといって、薬を抜かない
飲酒したことだけでPEPが無効になったとは判断しません。ただし、飲める量を一律に保証することもできません。薬の種類、肝臓の状態、併用薬を踏まえて処方元に確認します。服用中は大量飲酒を避け、吐き気・めまい・体調不良があるときは飲酒を控えてください。飲み忘れや嘔吐を防ぐことも大切です。[7]
「お酒を飲む日はPEPを休む」という調整はしません。すでに飲酒し、薬を飲めなかった・吐いた場合は、このページの飲み忘れ・嘔吐の対応に進んでください。
性行為:PEPを新たな接触の予防として過信しない
PEP服用中と、医師が予定したフォロー検査が完了するまでは、コンドームなしの性行為を避けます。性行為をする場合はコンドーム等を使用し、追加の感染機会を減らしてください。PEPを飲んでいるから新たな接触も安全、とは考えません。[6]
これは、PEPを服用している人がHIVに感染しているという意味ではありません。今回の接触後の確認を進めながら、新たな感染機会を増やさないための対策です。PEPでは妊娠や、淋菌・クラミジア・梅毒などをまとめて予防することもできません。
服用中にコンドームが破れた・新たな接触があった
新たな接触の日時・内容と、それまでの服用状況を処方元へ速やかに伝えます。継続期間、検査予定、PrEPへの移行などを再評価する場合があります。余った薬を追加したり、自分で服用期間を延ばしたりしないでください。妊娠の可能性がある接触では、緊急避妊など別の対応も必要になり得ます。[3]
仕事・運動・家族との生活
PEPを飲んでいるという理由だけで、仕事や家族との生活を一律に制限する必要はありません。食器・トイレの共用や、握手・抱擁などの日常的な接触でHIVは感染しません。体調に合わせて休み、めまいがあるときは運転や危険な作業を避けます。[8]
一方、血液が付着する可能性があるカミソリ・歯ブラシや注射器は共用しません。献血は控え、再開できる条件は血液センターで確認します。検査が1回陰性だったからすぐ献血できる、とは判断しないでください。[6][9]
妊娠の可能性・授乳がある場合
妊娠の可能性や妊娠判明、授乳中であることは早めに処方元へ伝えてください。妊娠・授乳だけを理由に、必要なPEPを自己判断でやめることは避けます。薬の選択と、授乳を続けるか一時的に別の方法にするかは、感染の可能性と薬の情報を合わせて個別に相談します。[1]
途中でやめたい。相手が陰性なら中止できる?
中止してよいかは、医師が新しく分かった情報も含めて判断します。症状がない、相手から「陰性」と聞いた、という理由だけで自分でやめないでください。
相手の検査方法・検査日・その後の接触などによって、陰性という情報の意味が変わることがあります。医師がPEPは不要と再評価し、中止を指示する場合もあります。つまり、何があっても28日間飲み続けるという意味ではありません。つらさや新しい情報を、途中でも伝えてください。[10]
B型慢性肝炎がある方は、使用する薬によって終了・中止後に肝炎が悪化するおそれもあります。診断歴を伝え、終了後の診察や採血についても確認します。[5]
薬が足りない、紛失した、他院や海外で受けた処方を続けたい場合も、薬名・開始日・残りの数が分かる資料を用意して早めに連絡します。薬がなくなってからではなく、足りなくなると分かった時点で相談しましょう。
28日間飲み終わったら、いつ検査を受ける?
服用終了で確認が終わるわけではありません。PEPを使用したことを検査先へ伝え、処方医と決めた時期・方法でHIV検査を受けてください。
抗HIV薬は、HIVが存在した場合のウイルス量や抗体が現れる時期に影響し、検査で見つけにくくすることがあります。そのため、PEPを使っていない人の検査時期や、飲み終わった直後の陰性だけで結論を出しません。[1]
| 確認する段階 | 知っておきたいこと |
|---|---|
| 服用中〜終了前 | 次回の検査日・検査方法・受診先を確認。接触日、開始日、終了予定日を別々に記録します。 |
| 途中のフォロー検査 | 米国CDC 2025年指針の検査計画では、曝露から4〜6週が目安。途中の検査が陰性でも確認は完了せず、最終のフォロー検査まで受けます。 |
| 最終のフォロー検査 | 同指針の検査計画では、曝露から12週が目安。検査方法、服用状況、再曝露の有無を含めて医師が判断します。 |
上記はCDCの推奨要約・検査計画表に基づく一般的な目安で、当院の一律の検査日程ではありません。同指針は抗原抗体検査と診断用の核酸検査(NAT)の組合せを推奨しています。検査の利用可否や個別条件に応じて予定を確認し、「服用終了から12週」などと起点を置き換えないでください。[1]
発熱・発疹などの症状、新たな接触、飲み忘れや中断があれば、検査の予定日を待たず伝えます。HIV以外の性感染症についても、接触した部位や状況に合った検査を相談できます。全員に同じ検査一式が必要という意味ではありません。
B型慢性肝炎がある方は、終了後の肝機能の確認も必要になるため、服用終了・中止時の注意を処方元と確認してください。
今後も感染機会がありそうなら、PrEPを相談する
PEPは接触後の予防、PrEPは今後のHIV感染を予防する方法です。繰り返し感染機会がある方では、PEP終了からPrEPへ移行する計画を立てられます。自己判断で手持ちの薬を続けるのではなく、終了前にHIV検査と移行方法を相談してください。移行後も、PEPに関するフォロー検査は必要です。[1]
検査まで不安で眠れない、何度も検索して生活に支障が出る場合も、そのこと自体を相談して構いません。不安を消すために検査を自己判断で繰り返すより、今の検査で何が分かり、次はいつ確認するかを整理しましょう。
検査時期・途中の陰性と最終確認の考え方は、PEP後のHIV検査の記事で詳しく解説しています。
処方元に連絡するときのメモ
服用中の相談は、薬とこれまでの経過が分かる処方元が第一の連絡先です。他院で処方された方も、まずその医療機関へ連絡してください。
- 薬名・1回量・1日の回数(薬袋や箱の写真でも可)
- 接触した日時、PEPを始めた日時
- 最後に実際に飲んだ時刻、今回の予定時刻、気づいた時刻
- 忘れた回数、吐いた時刻と回数、症状・水分摂取の状況
- 一緒に飲んだ薬・サプリ、新たな接触の有無、残っている薬の数
全部そろうまで連絡を遅らせる必要はありません。分かる範囲から伝えてください。
緊急症状は119・救急受診を優先してください。電話がつながらず服用できない状態が続く場合は、近隣の医療機関にPEP服用中と伝えて相談します。電話相談で診察・処方のすべてが完結するという意味ではありません。
まだPEPを始めていない方は、HIV感染の可能性がある接触から72時間以内のできるだけ早い相談が重要です。PEPが必要な場面・開始時期と、当院の受診・費用・受取方法をご覧ください。
当院で使用するタフィックは国内未承認薬です。薬・承認状況・主なリスク・費用などは、PEP薬剤の説明に掲載しています。本ページは服用中の情報を扱い、個別の処方指示に代わるものではありません。
医師紹介
金谷 正樹
モイストクリニック 院長
国際医療福祉大学病院、東京医科歯科大学病院(現東京科学大学病院)などで研鑽を積み、モイストクリニックで性感染症を中心に診療。日本性感染症学会会員。
医学監修:金谷正樹 医師|医学確認日:2026年9月14日
参考資料
資料確認日:2026年9月14日。海外の用法・検査計画を、国内の全製品や当院の個別処方へ一律に当てはめることはできません。
- CDC. Antiretroviral Postexposure Prophylaxis… United States, 2025. 服用期間・継続支援・検査とPrEP移行。
- PMDA:ビクタルビ配合錠 患者向医薬品ガイド 飲み忘れ・過量使用。
- ASHM:PEP Guidelines — Additional Clinical Considerations 飲み忘れ・中断・服用中の再曝露。
- Gilead Sciences:Biktarvy 50/200/25 mg 患者用説明書(英国、2026年2月更新) 嘔吐後の対応が製品資料に基づく例。タフィックの製品説明書ではありません。
- PMDA:ビクタルビ配合錠 電子添文(2026年8月改訂) 相互作用・副作用・B型肝炎への注意。
- ASHM:Clinical Assessment and Follow-up 症状・リスク低減・フォロー。
- Alder Hey NHS:PEP Regime (10 years and over) 成人の飲酒に関する記載を参照。掲載レジメンがすべての処方に共通するわけではありません。
- エイズ予防財団 API-Net:エイズQ&A 日常生活・食器や便座の共用などの感染経路に関する説明を参照。
- 日本赤十字社:エイズ、肝炎などのウイルス保有者、またはそれと疑われる方 献血を控える条件。
- NYSDOH AI / Johns Hopkins:PEP to Prevent HIV Infection 接触相手の検査結果とPEP継続の判断。
